招かれざる客が来るって話です。
「ちょっと、旅行なんて久しぶりなんですけどー」
ガタゴトと揺れる荷馬車の中から外を見やるギャル口調の少女がそんなことを呟いた。
此処はジュラの大森林。
鬱蒼と生い茂る森の緑に内心嫌気を覚えながらも、久方ぶりに認められた外出は、少女にとっていい気分転換になったようだ。
「なんだっけ、
「
うろ覚えであった少女の記憶を補完するように、一人の青年が
表面上は何とも穏やかそうな糸目の好青年であった。
「けっ、リザードマンね。……あんな雑魚モンスター相手に軍を動かすとかマジで言ってんのか?」
トゲトゲ頭の大柄な青年がぶっきらぼうにそう返す。
さきの青年と違って、何とも近づきがたい乱暴者の雰囲気を漂わせていた。
「うーん、万単位の魔物を従えてるとなると、十分脅威なんじゃないかな」
「どうだか」
「あーあ、命令とかマジだるいんですけど。これウチらがやらなきゃダメなワケ?」
ドサッと荷馬車の床に座る少女の言葉に、糸目の青年は困ったような表情を浮かべながら返答する。
「僕らはラーゼン様に逆らえないからね」
……そう、何を隠そう彼ら三人の正体は、ファルムス王国に長年に渡って仕えてきた王宮魔術師長ラーゼンが呼び寄せた異世界の人間であったのだ。
糸目の青年ことキョウヤ・タチバナの口にした言葉に少女キララ・ミズタニと青年ショウゴ・タグチは反発する。
「あのくそジジイに『様』なんてつけてんじゃねーよ」
「そうだよ、あんたマジメすぎ!」
「癖になってるんだよ。……それに、本人を前にポロっと素が出たらヤバいだろ?」
ある日突然、右も左も分からない世界に呼び寄せられて無理やり戦わされる。
ファルムス王国に心の底から忠誠を誓っている異世界人など、それこそ数えるほどしかいない。
「いいよ別に。あのジジイの呪言のせいでウチら逆らえないんでしょ?……ぜってーいつか殺してやるし」
「おい、お前ら!」
キララが愚痴を零したその時、御者台から荷馬車の中にいる自分達に向けて声がかけられる。
「降りろ、着いたぞ。自分達の仕事は分かっているな?」
「……勿論ですよ」
三人を代表するようにキョウヤが答える。
従うにしろ逃げだす機を窺うにしろ、今は大人しく命令を遂行したほうが賢明であると判断したが故に。
「チッ、自分より弱い奴らに従わなきゃなんねえとか、どんな罰ゲームだよ」
「まぁ殆どの奴らがユニークスキルを持っていないしね。だからこそ僕らに頼らざるを得ないんだと思うよ。異世界人の僕らにね」
荷馬車から外へと飛び出したキョウヤ達三人。
彼らに与えられた命令は一つ。
「つーかよ、たったの一時間で町を落とせなんて命令、俺達が居なきゃ成り立たねえだろ」
「正確には
「そんなことどーでもいいから、早く行ってぶっ殺しちゃおーよ」
……
みんなー、元気してるー?
俺はメッチャ元気してるー(棒)
俺はこの
皆よろぴくねー!
「あ、レイタロウ様だ!」
「レイタロウ様おはようございます!」
「レイタロウ様、今日も見回りお疲れ様です!」
「遊んで遊んでー、レイタロウ様ー!」
「皆おはよう、今日も程々に頑張ってくれたまえ」
「「「「 はい!ありがとうございます! 」」」」
毎日町の見回りをしているためか、住民達は顔を見るなり俺に熱烈な挨拶をしてくれる。
そして、挨拶に挨拶で返すまでが一連のやり取りとなる。
「クフフ、この町の住民達はわざわざ言って聞かせるまでもなくレイタロウ様の素晴らしさを理解しているようですね。……このディアブロ、感無量で御座います」
「……君は大げさだねぇ、ディアブロ」
「大げさなどと……私は当たり前のことを言ったまでで御座います」
お供として同行させているディアブロのお世辞もそこそこに、ここ最近の町の変化について話していこうと思う。
やっぱり一番の変化と言えば、竜を祀る民との本格的な交流が生まれたことだろう。
数日前に両国間で調印式が執り行われて以降、今まで自領に引き籠っていた彼ら
目当てはやはり、シュナ主催のお料理講演会。
ミッドレイさんの影響もあり、最初こそ料理そのものに懐疑的な視線を向けていた彼ら竜を祀る民も、シュナとミッドレイさん自身が根気強く説得することで徐々に料理の重要性を理解していき、結果として初回の講演会は大成功を収めることが出来たワケだ。
「竜を祀る民をはじめ、この国には多種多様な種族や国の代表が集まっております。純粋な善意をもって訪れる者もいる反面、大変不快な輩も入り混じっておりますが……」
「……まぁ流石に分かるよねぇ」
「この町を円状に覆うように、薄く広く戦力が展開されております。……ご命令とあらば消しますが」
「いいっていいって。それを望んだのは俺自身だし、その時が来るまでは好きにさせときなさい」
「承知いたしました」
今日はミリムもウチに滞在している。
目的はミッドレイさんの手料理を味わうことだが、シオンレベルに壊滅的でないことを祈らせてもらおう。
……と、その時だった。
俺がいま通り過ぎようとしていた建物の影から、ソウエイがスッと顔を出してきたのだ。
「見回り中失礼いたします、レイタロウ様。至急お耳に入れたいことが……」
「聞こう」
「リムル様からの連絡で、ヒナタ・サカグチの身柄を確保することに成功した、即時帰還するが大丈夫かどうか、とのことです」
え、結構早くね?
もしかして……勝負せずに制圧した感じかな。
「リムルさんに送れ。……思ったより早く終わって驚いたけど、それなら早く帰ってきておいで」
……彼女、十中八九怪我してるよなぁ。
今のリムルさんは、何と言うか脳筋気味なんだよなぁ。
まぁ(シエル先生込みで)頭脳派でもあるけれども。
「……ヒナタの治癒は俺が引き受けようってね」
「承知」
そう言ってヌルっと影の中に姿を消したソウエイを見送りつつ、俺はディアブロとともに歩を進めた。
「ディアブロ、俺が合図すればいつでも作動できるように済ましてあるな?」
「はっ、準備は完璧に御座います」
「宜しい。ならば直接会いに行ってやろう」
「クフフ……追い詰めたつもりが逆に追い詰められていたと、あの人間共は夢にも思わないでしょう」
「つまり状況は最高ということだ。……そろそろネタバラシをしてやらねばな」
一方その頃、魔物の町である
「は―――ッ!?ちょっとオカシクね、こいつら魔物っしょ!?」
「余所の国の行商や観光してる人間もいるね」
「そんなのどうでもいいし!」
キョウヤの言葉をバッサリと切り捨てるキララ。
彼女の胸中にあったのは、自分達がファルムス王国で受けている待遇との差。
……つまりは〝嫉妬〟の感情であった。
「ぶっちゃけこの町、ファルムスよりキレイくね?なんで召喚されたウチらよりこいつらのほうがいい生活してるワケ!?」
遠回しに魔物を見下し、その暮らしぶりを羨むキララの発言に反発する者はいない。
キョウヤですら同じことを思っていたのかもしれない。
ふとしたその時、ショウゴが口を開いた。
「別にいいじゃねえか」
「なんで!?チョー気分悪くない!?」
「リザードマンがここの親玉なんだろ?ソイツをぶっ殺しゃ俺達がここの主だ。魔物ってのは強え奴に従うらしいしな」
普段から粗暴な態度を隠そうともしないショウゴらしからぬ発言に、キララとキョウヤは思わずポカンとする。
なるほど、その手があったかと。
「いいねショウゴ!ウチその案にサンセー!」
「……勝手なことしてラーゼン様に知れたら大変だよ?」
「あ?大丈夫だって。俺達が合図を送ったら即座に
ショウゴの割と具体的な案に考え込むキョウヤ。
なるほど確かに、ここで住民の一人や二人を殺害すれば、否が応でも親玉のリザードマンの耳にも触れるだろう。
この町の責任者のリザードマンを出せ!……とでも言っておけば完璧だ。
「……それもそうかも。じゃあ頼むよキララさん」
「ウチが殺っていいの?おっけー!」
言われるままに少し遠くへ駆け出していくキララを見つめながら、ショウゴが引き気味にキョウヤに話しかける。
「……キララにやらせんのか、お前エグいな」
「そう?だってこういうことは、彼女の能力が一番適してると思って」
「まぁそうだな―――あ?」
「え……?」
「ちょ、ちょっと誰だしアンタ!?」
「誰?……俺はこの国の王様だよ、
「は……クソって……!!」
ユニークスキル『
発した言葉を脳波に干渉する波長へ変換し、複数人を同時に操れる精神干渉系のスキル、か。
そんなものをこんな往来のど真ん中で使われたらとんでもなく面倒なことになる。
だからこうやって、この身を盾にして妨害しているワケ。
「さて、来て早々すまないが君達三人には即刻この国を出てもらう。以降、この国に近付くことも許さん」
「は、はぁぁ!!?ウチらが何をしたって言うし!!」
「何もしとらんよ。……
俺の言葉を受けてただならぬ雰囲気を悟った住民や旅商人達は、ササっと十歩ほど後ろに下がって事の成り行きを見守っていた。
そうそう、最初は穏便に済ませようとしましたアピールをしとかないとね。
こっちから喧嘩を売ったと思われたらマズいから。
「おーおー、さっきから聞いてりゃ、連れ相手に好き勝手言ってくれやがってよぉ!?魔物の国の王様ってのはそんなに偉いのかねぇ!?」
「やれやれ、これじゃあどっちが悪いのか微妙な感じになっちゃったな。……まぁいいか」
「ショウゴ!キョウヤ!こいつ魔物だからウチのスキルも効かないと思うし、早く殺っちゃってよ!!」
愛せない三馬鹿集結、って言ったところか。
後から来たクソガキ二人の殺る気は十分だな。
「よく聞けクソガキ共。退くなら命までは取らんが、退かないなら俺の手で処断せねばならん。分かりやすく言うなら殺処分だ。流石に意味は分かるな?」
「ケッ、たかが
「退くなんてあり得ないですよ。……だってあなたの首を取れればそれで済む話なんですから」
あーあ、片やファイティングポーズを決め込み、片や袋から剣を取り出しちゃった。
これはもう、ね……?
大正義降臨状態なんですわ。
「是非もなし。……ディアブロ、周りにいる者達が巻き込まれないように注意を払え」
「かしこまりました。では……?」
「こうなった以上、俺の手で処断するほかあるまいよ」
俺が一歩進み出たことで、大義名分を得られたと思ったのか何とも下衆な笑みを浮かべたツンツン頭のクソガキ。
拳を握り固め、一気に駆け出した。
普通の人間と比べればその速力は段違いであり、あっという間に俺との間合いを詰めて殴りかかってきた。
「図体がデケェだけのデクの坊がッ、俺の力に適うはずがねぇんだ―――」
「連続普通の弱パンチ」
パンチというか、まぁ正確には左ジャブなんだけどね。
0.01秒の間に百発ものジャブを全身に叩き込んでやった。
手足は
辛うじて人間だったと分かる程度に原型を留めつつ、一人のクソガキの生涯を終えさせた。
「えっ……ショウゴ?」
「……さて、次は誰だ?」
「ッ〜〜〜!!?」
剣を持ったクソガキのほうは、ようやく自分達の置かれている状況がどれだけヤバいものかを理解することが出来たようだね。
……しかし、逃走ではなく反撃を選ぶ時点でオツムのほうはお粗末様だけど。
おーおー、斬りかかってきおった。
「(だ、大丈夫だ、斬撃に特化した『
剣を持ったクソガキの首に、横一文字の殺気を刻み込む。
ノーシーボ効果、いわゆる思い込みの狂気の極致とでも言えばいいかな?
ガゼル王ほどの精神力があれば錯覚で済ませられるけど、このクソガキにそこまでの精神力は無かったようで、その首はいとも容易く地面に落ちた。*1
ある程度の強敵相手となると牽制ぐらいにしか使えないものの、雑魚の足切りにはちょうどいいのだ。
足元にまで転がってきた
「一緒だよ。僅かにでも勝てると思ったのなら、君はそのショウゴとかいうクソガキと同程度でしかない」
「(な、な、何をされた!?……いや、それよりも『思考加速』が切れないぃぃぃぃいだいぃぃぃぃ!)」
さてと、残るはあのクソガキ一人だな。
まぁお察しの通り、かなり怯えきっているけど。
「くっ……〝来るな〟ぁぁ!!来ないでぇぇぇ!!?」
「……魔物に自分のスキルは通用しないと自分で言っていなかったかね。記憶力に欠落があるようだが?」
「ふざっけんなクソがぁ!ウチを舐めてんじゃねーぞ!!お前らみんな〝死んじまえ〟ぇぇぇ!!!」
「あ」
あ、死んだ。
〝四方の王の陣〟が結界内の調和を乱したクソガキに鉄槌を下してしまった。
「……ふぇ?」
顔中の穴という穴からドロリと血を垂れ流し、強く死を
……スキルの効果をそのまんま返しされた上での自爆という前置きは付くが。
あーあ、だから辞めておけと……言ってなかったな。
「レイタロウ様、この者らがどうやら〝合図〟を送る役割を担っていたようです」
「あー、うん、そうだねぇ。……最後は勝手に自爆されちゃったけど」
「レイタロウ様の手を煩わせるなど、想像以上に無能な連中だったようです。死してなお憎たらしい……!」
「まぁ仕方ない。俺の『未来視』はユニーク以上のスキルを持つ相手だと
「ご謙遜を……」
正確には、究極能力『
ざっくばらんに言えば、スキル越しに観察している人や魔物の未来を見通すことが出来る千里眼みたいなものだ。
人を視て現在と未来を知る、それが『裁定者』だ。
「こうなった以上はしょうがあるまい。開戦の口火はこちらで切らせてもらうとしよう。……やれ、ディアブロ」
「承知いたしました」
まぁ後で口裏も合わせられるだろうし、今回に限って言えば非はファルムス王国側にある。
よせと言ったのに聞き入れなかったんだ。
これは報いだよぉ。
ディアブロが指パッチンをする。
そうすると……。
中央都市リムルは
……否、中央都市だけに留まらない。
結界は何重にも張り巡らされ、やがてジュラの大森林の中心部分をスッポリと覆うまでに展開された。
住民達はあまりに突然のことで唖然としていたが、体調不良を起こして倒れ込む者は一人もいなかった。
まぁそれもそうだろう。
何せこれは……。
ファルムス王国軍攻略RTAはっじまっるよー!!
地獄の幕開けです。