まずは密談から始まるよって話です。
「……なるほどな、つまり二年前の暴風竜消失は貴様が原因だったと」
「ハハハ、そういうことになるのかな?」
俺やリムルさんが洞窟の中であれやこれやしている間に、世間ではそんな大騒ぎになっていたんだなぁ……。
あ、こんちわー、俺は皆大好きレイタロウさんだよぉ。
俺とリムルさん、ガゼル王、エラルドさんの四人だけで緊急の密談を行っている真っ最中である。
場所は変わらず花々の香りが漂う庭園の一角だ。
「新たな魔王の出現で手一杯だというのに、この上、暴風竜などと……」
「西方聖教会が黙ってはおるまい。何せあそこは暴風竜を特に敵視しておる」
「……でしょうね」
「復活すれば即座に気付くであろうな」
だが、西方聖教会を敵を回すほどの事態は想定していなかったのだろう。
リムルさんもその点に思い至ったのか、いつになく真剣にガゼル王に質問した。
「なぁガゼル王。俺達が西方聖教会と事を構えることになったら、どっちに付く?」
「それを聞くか、リムルよ……」
教会か、それとも魔物か。
いま現在牢獄にぶち込まれているファルムス王国軍の生き残り三人は教会に付くことを選んだが、果たして……?
「ドワルゴンは西方聖教会に何の義理も無いのでな。友好国である
「そうか、あんたがそう言ってくれるなら心強いよ!」
「リムル、貴様もこの国の顔の一つなら、せめて腹芸くらいは覚えよ。これが密談で良かったぞ……」
「あ、はい……」
ハハハ……それは流石にこっちが迂闊すぎたとも言う。
ヴェルドラさんの人間態の時の顔は、今やこの国中に知れ渡っているからなぁ。
「ほかの国はどう判断するか分かりませんよ?……レイタロウ殿が話された通りなら、戦況が一方的過ぎます」
誰が信じるだろうか?
ファルムス王国の陰謀を
ファルムス王国軍がノコノコと攻め込んできてくれたおかげで、ジュラの大森林の中心部をスッポリと覆う多重護国結界と、二万人分の魂を獲得することが出来たのだ。
オマケとして兵器や装備品、補給物資といった鹵獲品も強奪、もとい拝借してある。
「貴様、まさしく魔王だな……」
「敵国の兵士達の遺体を祖国に返そうとするだけ、まだ人の心があるとは思わんかね?」
「……何はともあれ、事情も経緯も知る術のない大衆から見れば、二万の死者を出した魔王となれば邪悪に映るでしょう。西方聖教会から〝神敵〟に認定されれば、西側諸国は敵に回ると思っておいたほうがいい」
「そうなれば友好国の立場も厳しくなる……それは御免被りたいな」
「……魔導王朝サリオンとしてはどう考えているのかね」
「お答えしかねますね、今の段階では。……ただ、エレンは明らかに貴方の側に付いて行動しております。である以上、静観はできないのです。戦争被害の状況が西側諸国に広まれば、我が国は厳しい立場に追い込まれる」
「なんだ、そんなことか」
「……?」
「ご安心めされよ。事実が広まることは一切ない」
「どういうことか、お聞きしても?」
エラルドさんの質問に優しくこう答えてあげる。
「捕虜を除いて生き残った者はいない。残ったのは精々遺体くらいなものだ。ならば、いくらでもやりようはある。ただ、リムルさんにとっては気分の良いものではないだろうがな」
「……清濁併せ呑む覚悟はあるようだな」
「で、どういう筋書きをでっち上げるんだよ?」
「手っ取り早くて確実な方法がある。それは……」
密談はおよそ三十分ほどで終わり、いよいよ本格的な会議を始めることとした。
場所は変わらず庭園の一角。
先程まで四人しかいなかったが、現在大勢の人達が所狭しと並んでいるためメチャクチャ窮屈に感じてしまう。
「……では、既に皆様自己紹介はお済みですので、各国の代表者様のご紹介だけさせていただきます」
司会進行は、我が愛しの妻シュナに任せている。
彼女なら問題なくこなしてくれるだろう。
「武装国家ドワルゴンより、国王陛下ガゼル・ドワルゴ様」
「………」
代表はガゼル王その人。この会議出席メンバーの中でもとりわけ王者としての覇気が凄まじい。
「ブルムンド王国より、ギルドマスター兼情報局統括補佐フューズ様」
「(なんでこんな大役を俺が……いやまぁ自分で言ったんだけど)」
代表として顔を出す羽目になったフューズさんだったが、此処に集まっている
「魔導王朝サリオンより、大公爵エラルド・グリムワルト様」
「………」
エラルドさんは普段から娘に甘々な父親らしいが、冷徹な貴族としての一面も確かに持ち合わせている。
決して蔑ろには出来ないだろう。
……っていうか、あの体からして本体じゃないな?
「忘れられた竜の都より、魔王ミリム・ナーヴァ様」
「何か面白そうな話をすると聞いてやって来たのだッ!!」
「「「( なんで此処に魔王ミリムが……!!? )」」」
思わぬ魔王の存在に、ガゼル王含めた面々から鋭い視線を向けられてしまう。
そりゃあ此処に住むと本人が言ってましたからねぇ。
「最後に、ジュラ・スターモンズ連邦国より、魔王陛下レイタロウ・スターモンズ様」
「……うむ、みんな楽にしてくれ」
ちなみに、ヴェルドラさんには顧問として参加してもらっているが、彼に喋られると場が混乱するということでリムルさんが
聖典を印字する際に用いた紙等は、どうやらユウキ・カグラザカ経由で大量にせしめておいたとのこと。
というかヴェルドラさん、昨日の今日でもう聖典に没頭してるし。
「……それでは始めよう」
まずは経緯を説明する。
俺やリムルさんのルーツや、ヴェルドラさんとの縁が気になっている者もいたので、俺達がそれぞれ
途中こんな質問が飛んでくることもあり……。
「レイタロウとリムルは同じ異世界とやらの出身では無いのか?」
「……そうだなぁ、分かりやすく違いを表現すると、俺の元いた世界には〝怪人〟と呼ばれるこの世界での魔物に相当する人類の脅威が存在していたんだ」
「カイジン……?」
「ドワーフのほうじゃないぞミリム。……俺はその世界で怪人退治や人助けなんかを生業とする仕事に就いていたんだ。この世界でいうところの西方聖教会の聖騎士か、あるいは自由組合の冒険者みたいなものだな」
「でも、今は魔王ではないか!」
「……今だからぶっちゃけるけど、俺はこの世界に来るより
「そうなのか?」
「そ、要は周囲に迫害されたくないから人間のフリをして人間を守ってきた魔物なのさ、俺って奴は」
……とまぁ、そこで俺の過去話は打ち切った。
だって今更自慢できようはずもないのよ。
俺がかつて、ヨウム君と同じ
「……さて、事の
俺の言葉に、会議に参加していた者達が色めき立つ。
そんな皆の気持ちを代弁するように、つい最近体調が回復したばかりのベニマルが口を開いた。
「どのような理由でどんなふうに変えるのですか?」
「……返り血で染まった手で友好を求められても、その手を取れる者はまずいない。俺の目的はあくまでこの国に住まう者達の安寧だが、それには人魔共栄が欠かせないとも考えている。単に恐れられる存在となっては最悪と言えよう。そして、それは
俺の言葉を受け、ハッと何か気付いたようにヴェルドラさんを見つめる一同。
ヴェルドラさんは
「大まかな筋書きはこうだ。……ここ
「……その存在はもはや伝説であり、その行いは紛うことなき〝天災〟だ。受け入れる以外の選択肢はなかろう」
「フッ、
ガゼル王がさりげなく補足してくれたことで、皆一様に納得してくれたようだ。
「私もこの筋書きを支持します。魔王と懇意にしているが故に娘が恨まれるより、魔王が誕生したおかげで暴風竜との交渉が可能になった、そう広まるほうが都合が良い」
「パパ……それってなんか姑息ぅ」
ズクシュ!!「っ……」
可哀想に、
「反対意見があればいま言ってくれ。特にヴェルドラさんには俺の罪を背負わせることになるが……」
「何も問題ないぞ。リムルの友は我の友、友の
「……ありがとう、ヴェルドラさん」
悪いね、事前に打ち合わせたとはいえ余計な面倒事を背負い込ませちゃって。
今度何か違う形で礼はするからね?
「本当に暴風竜と友達なんだな……」
「ところでレイタロウよ、捕虜はどうするのだ?……そやつらの口から真実が語られないとも限らんぞ」
「あぁ、そのことなんだが―――」
ファルムス王国を一度滅ぼす。
俺のこの言葉に、会議メンバーは再度色めき立った。
その動揺ぶりは肌で感じ取れるほどに大きく、中には俺に畏怖の視線を向ける者すらいる。
重苦しい沈黙を破ったのはエラルドさんだった。
「ほぅ、それはまた直接的ですね。戦争を仕掛けるおつもりか?」
「ある意味そうとも言える。……だが軍は用いぬ。まずは現王を解放し、我が国への賠償を行わせる」
「……しかし、言っては何だが、あそこは一部の貴族を除いて腐ってますよ。賠償にマトモに応じるとは思えんのですが……」
「それが狙いだ。賠償問題はキッカケに過ぎない。本当の目的はファルムス王国内に内戦を起こさせることだ」
「内戦……?」
フューズさんの指摘にそう返すと、俺は次にヨウム君に目配せをして立ち上がらせた。
「一度滅ぼし、新しい国に生まれ変わらせる。……英雄ヨウムを新たなる王に据えてな」
ヨウム君の表情は緊張で強張っていたが、不思議と落ち着きも感じられた。
その目には、確かな〝覚悟〟が宿っている。
会議はまだまだ始まったばかり……。
転スラあるある、綿密な会議の巻。