閑話 魔王達の思惑とかつての豚頭魔王
<<< 閑話⑦ 魔王達の思惑 >>>
「フ、フフフ……どうやら上手く行ったようですね」
暗雲立ち込める傀儡国ジスターヴ。
その居城の一室にて不敵な笑みを零すのは、
「(これで私は、真なる魔王へと覚醒することが出来る。
彼の元に届いた報せ、それは
優雅にグラスを口元に近付け、ワインを少量口に含む。
その佇まいは余裕で満ちあふれていた。
「(ただ惜しむらくは、
問題ない。
クレイマンは口元を大きく歪めた。
「(すぐにでもティアとフットマンを呼び戻し、大量の人間の魂を取り込めば十分に間に合う。貴様を
『マズイよクレイマン!魔物の国に入る前に
『奥の手の
「ッ〜〜〜、何だ、今のは……!!?」
『作戦は成功したよクレイマン!予定通りファルムス王国軍の魂を収集完了!』
『我々はいつそちらに戻れば宜しいですかな?』
「……そう、そうだ、問題は無い、無いはずなんだ」
東の帝国の
明日開かれる
神聖法皇国ルベリオス。
……その地下深くに広がる
「……ヒナタめ、一体どこに……ッ」
その報せを届けに来たのは、直属の配下である〝三公〟のルイ・ヴァレンタイン。
〝神の右手〟の称号を持つ西方聖教会の
現在
その場しのぎの時間稼ぎでしかないが、国民には徹底して事実は伏せられている。
「(……何度やっても通信が出来ぬ。よほど遠くにいるのか、あるいは何かしらの結界で阻まれているのか)」
もしや、とルミナスは思い至る。
そんなはずは、まさか、しかしあり得ないこともないとルミナスは思考を巡らせ、ある一つの
「(……やはり、妾も
彼女が想定した最悪……それは、決して手を出してはならないと厳命した
文字通りの天災である魔王ミリム・ナーヴァの本気を引き出した上で圧勝を収めた、あの怪物によって……。
かくして、
明日開かれる
白氷宮。
原初の悪魔の一柱である
「……それで、私を呼びつけるとはどういう用件だ?」
白氷宮の最上階に当たる氷のテラスにて、氷よりも冷たい言葉が投げかけられる。
声の主は、ジュラの大森林にて新たに魔王に名を連ねた男より前に魔王へと成り上がった新参者。
黄金郷エルドラドを領土に持つ
勇者でありながら魔王と成った変わり種。
「最初の魔王にして原初の悪魔の
「……あっははは、堅苦しい呼び方はよしてくれ。オレ達は対等な〝魔王〟だろう?」
「(よく言う……)」
自分が弱いなどと露ほどにも思っていないレオンだが、太古の時代より生き永らえている目の前の悪魔より強いとは思っていない。
対等などと謙遜されても、それは嫌味でしかなかった。
「お前も知る通り、
「……理由は?」
「面白いことになりそうだからだよ。……提案者はレイタロウ・スターモンズ。新参の魔王だが異常に強くてな、ミリムを真正面から撃破した光景はお前も目にしているだろう?」
「……現実離れしすぎてて信用に値しないと判断していたが、その口ぶりから察するに本当なのか?」
「でなければミリムが賛同者に回るはずもない。何なら俺も賛同者になったことでワルプルギスは開かれる運びとなったのだ」
「……あり得ないことがあり得ない、というワケか」
レオンは思わず空を仰ぐ。
これからは新たに台頭した魔王の動向にも細心の注意を払わねばならない。
敵対など論外だが、さりとて友好関係を結ぼうにも接点が無さすぎた。
「支配下に置かれているとまでは言わずとも、ミリムのあの様子から察するに本気で懐いている可能性は極めて高い。そして無いとは思うが、レイタロウがミリムをけしかけてお前の領土に攻め入らせれば……」
「……ミリムをけしかけられたら私の領土は消し飛ぶだろうな。なるほどつまり、ヤツと一度でも顔合わせをする機会を設けようという心遣いと言いたいワケか」
「一つ良いことを教えてやるよ。……ヤツに領土的な野心はこれっぽっちも無い。ジュラの大森林全域の支配権を認めてくれれば、他の魔王領への侵攻はしないと口約束してくれた。まぁ他国と友好関係を結ぶという意味ではあっちに行ったりこっちに行ったりを繰り返すそうだがな」
「……フッ、圧倒的武力を背景にした友好か。馴れ合うつもりはないが、あの映像のような惨事は御免被る」
「では、今回のワルプルギスはお前も参加だな」
上手く丸め込まれた気もするが、参加自体に特段のデメリットはなく、レイタロウという人物を見極める場として考えれば益の無いことは無いだろうとレオンは割り切ることとした。
「……それはそうと、随分ヤツの内情に精通しているようだが、まさか国賓として招かれたとは言うまいな?」
「まぁな。その時は俺のほうから出向いたんだが、ヤツは特に物怖じするでもなくオレの滞在を許し、あろうことか魔王就任祝いと称して酒の席にまで招いてくれたのさ。中々楽しめたぞ?」
「……警戒心が無さすぎると言うべきか、それは確かに大物だな」
「いや?全く警戒心が無いワケでは無かったぞ。町全体を覆うあの結界の構成には最初驚かされたなぁ……」
原初の悪魔に誘われるように、白金の悪魔は耳を傾ける。
明日開かれる
<<< 閑話⑧ かつての豚頭魔王 >>>
こんばんチー、今宵は新月が映えるね!
俺はジュラ・スターモンズ連邦国の国王にして、十大魔王の一柱を務めるレイタロウという者だヨン。
皆よろぴくエモン〜。
「なんだ、緊張しているのかゲルド?」
「っ、いえ、決してそのようなことは……」
「俺達には何でもお見通しだぞ、ゲルド」
「……レイタロウ様とリムル様には敵いませんね」
現在、談話室にて俺とリムルさんはゲルドと向かい合うようにソファーに深く腰掛け、迎えが来るのを今か今かと待っている状況である。
勿論、俺達三人だけでは無い。
いじけながらも黙って〝
それぞれの従者として、ベレッタやトレイニーさん、病み上がりのアルビスさんやフォビオ君もいる。
ちなみにミリムの従者はいない。必要ないと言うべきか。
閑話休題。
俺とリムルさんの追及に観念したかのように息を吐くと、ゲルドは胸の内に秘めていた本心を吐露してくれた。
「……今は亡き我が祖国オービックに思いを馳せておりました」
「……そうだったな、君はそこの王を務めていた」
傀儡国ジスターヴを治めるクレイマンの怠慢によって結果的に国を飢饉に追いやられ、挙げ句『魔王誕生計画』に利用される形で
民を飢えから救うべく、ジュラの大森林の恵みを独占するために侵攻を開始し、その果てに
……いや、そこから彼らオークのサクセスストーリーが始まったのだ。
「正直なところ、オービックを守れなかったのはクレイマンの怠慢などではなく、単に我らオークが弱かったからではないかと、今はそう思っております」
「「 ……… 」」
「かつての我らに今のような力があれば、
「……そうだな、過去を変える術は無い」
俺だってそうさ、過去を悔やむのは一度や二度じゃない。
あれをやってい
そんな後悔の連続なのよ。
「だがなゲルド。変えられない過去を振り返られるのならば、それはそのまま未来を創り出す大きな原動力に変えることが出来るんだぞ?」
「っ、未来を、創り出す……?」
「我が国と他国を繋ぐ長大な街道がまさに良い例だ。あれこそ人魔共栄という理想の未来を創り出す架け橋であり、紛れもなく君達オークの偉業なのだ」
あまりにも意外だったのか、目を剥いて驚きを露わにするゲルドに俺は更に畳み掛けていく。
「過去からは逃れられない。肝心なのはそれから目を背けるか向き直れるかだ。もし
「……オレは、過去から目を背けません」
「ならば良し。……だが、過去にケリをつけることなら出来るぞ」
「はっ……?」
「クレイマンに今まで溜めていた怒りを全てぶつけることを許す。殺しさえしなければ何をしてもいいぞ」
「ッ〜〜〜、はっ、謹んでお受けいたします」
『魔王誕生計画』の成果物が自らに牙を剥いて襲いかかってくる、これ以上の皮肉も無いだろう。
「フッ、それなら話は早え」
「カリオン」
「クレイマンの野郎のせいで首都が滅ぼされたんだ。本当なら俺の手で恨みを晴らしたかったが……」
「……カリオン?」
浮かない顔をしてどうしたんだろ?
てっきり俺様に殺らせろ!とか何とか言ってくると思ったけど。
「……友好国であるお前らが代わりに制裁を下してくれるのなら俺の配下も納得するだろう。頼んだぜゲルド」
「はい、分かっております」
……ホントにどうしたのかしら、カリオン?
傍らに控えているアルビスさんもフォビオ君も冴えない顔をしているし、何か思い悩んでいるのかな?
「お前ならクレイマンどころか大抵の魔王とも互角以上に渡り合えるぞ!このワタシが言うのだから間違いは無いのだ!」
「ありがとうございます、ミリム様」
ミリムの激励を受けて自信を貰ったゲルドは、覚悟を決めたように更に表情を引き締める。
……と、その時であった。
談話室内で僅かにだが未知の
「リムルさん」
「あぁレイタロウさん。……どうやら迎えが来たようだ」
俺以外にもリムルさんやトレイニーさんなどといった魔力感知に優れた者達もその異変を感じ取る。
「同じ魔王からの招待か……」
「初めてのことばかりだな」
瞬間、談話室は光と煙に包まれる。
……光が収まり煙が晴れると、目の前に何とも緻密で豪華な装飾の施された両開きの門が現れていた。
「相変わらず仰々しいねぇ」
「毎度同じだと流石に飽きるのだ」
「………」
「空間を繋げる扉か。随分凝ってるなぁ……」
三者三様(カリオンは無言だったが)の反応を示している間に、扉はひとりでに開かれていき、奥から一人のメイドが現れた。
緑髪が特徴的な、
これは……あれだな、ディアブロと実質兄弟姉妹の関係にあるからなんだなきっと。
「お迎えに参りました。ラミリス様、ミリム様、カリオン様、レイタロウ様」
「久しぶりじゃんミザリー!相方のレインは元気?」
「お陰様で変わりありません」
初めてギィが
今回が初入国というワケだな……って、そんなことは今はどうでもいいか。
「どうぞこちらの門を通り、
「レイタロウちゃん、先行くよー?」
「リムルよ、この先で待っているのだ!」
「……先に行ってるぜ、レイタロウ」
ラミリス、ミリム、カリオンと順々に門の奥へと消えていき、最後には俺達三人だけが残された。
やれやれ、この先は魔窟ってワケだな……。
「ふぅ……」
「レイタロウさん?」
「レイタロウ様……?」
……よし、臆病の時間は終わりだ。
「行こう、いつも通りにな」
「おぅ」
「はい」
そうして俺達は、門の先へと足を踏み入れた。
ダグリュール「お前はいつまでここにおるのだ?」
ディーノ「わかんねー、ダルい」
ダグリュール「(……いっそ、新参の魔王に押し付けるのもありだな)」