クレイマンが、命の炎を燃やすって話です。
「クッ、黒トカゲ風情の手下が調子に乗るなよ!?行け、
「……あくまで前に出て戦わぬか」
「そのような泥臭い真似はせん!!私は常に余裕を持ち、優雅に敵を葬ってきたのだ!!……今までも、そしてこれからもッ!!」
「貴様に先は無い。それがレイタロウ様の決定だからだ」
「黙れ黙れだまれぇぇぇぇぇ!!!」
やぁ皆ごきげんよう。
俺は十大魔王の一柱であるレイタロウだヨン。
今は魔王クレイマンとの一騎打ち……なワケがなくて。
「よぉ〜しよしよしよし、可愛いなこの仔はぁ!」
「そうだよなぁ。モフモフっとしてて……ランガとはまた別の意味で可愛いよな!」
魔王の威信をかけたクレイマンとの戦いはゲルドに任せ、俺とリムルさんは支配の呪いから解放してあげた子狐をモフモフして可愛がってあげた。
「ギ、ギィ……」
「駄目だラミリス。まだ終わっちゃいねぇよ」
「で、でもさ!もう殆ど終わったようなもんじゃん!」
「……クレイマンがくたばった後で、いくらでもモフりに行けばいいじゃねぇか」
「あ、そうか!」
どうやらギィやラミリスからしても、この戦いの結末は見え透いていたらしい。
まぁそうだよね、だって……。
「
「ッ……ふ、ふははははっ、やるではないか!強力な魔人の魂を封じ込めた人形をこうも容易く打ち砕こうとは」
クレイマンが説明してくれたように、
「……下らん。それが奥の手なら貴様のほうこそ魔王を名乗る資格が無いぞ、クレイマンよ」
「フンッ、これで終わりだと思ったか。言っただろう?魔人達の魂を封じ込めたと」
人形の頭を踏みつけながらクツクツと笑っておられるが、そんな余裕ぶっこいて大丈夫?
「今一度立ち上がれ人形どもよ!そして踊るのだ!その豚頭を死へと誘う舞踏をな!!」
「「「 ……… 」」」
「……ば、馬鹿なッ、復活しないだと!?何故……ッ!?(封入した魂が消えている!!?)」
「人形遊びは終わりか?」
「ッ〜〜〜!!(まさかさっきの攻撃、
それだけじゃ甘く見積もって六十点くらいだね。
正確には、魂すら溶かし喰らう
それを証拠に、時間差で人形が溶け出しておられる。
「くっ、来るなぁぁ!!?
「……ほぅ」
事ここに及んで自身の不利を悟り始めたクレイマン。
怯えた様子で掌から黒く禍々しい糸束のようなものをゲルドめがけて射出した。
ゲルドはそれを避ける……ようなことは敢えてせず、黒い糸束に巻き付かれるままにその場に留まった。
やがて、黒い糸束はゲルドの全身を覆い尽くすに至る。
「……ふっ、ふははははは!ザマを見よ!これで貴様は私の忠実な操り人形だ!!その支配から逃れることは何人たりとも叶わな―――」
「一つ、貴様に教えておいてやろう」
「ッ〜〜〜!!?(そんな、まさか、あ、りえな……)」
「貴様は良くてユニークスキルしか保有していないようだが、オレはレイタロウ様より
クレイマンの支配の糸を容易く弾き返したゲルドは、ホコリでも払うように肩をパッパとはたいた。
……猫吸いならぬ狐吸いはまだ出来そうだな。
「(馬鹿なッ、私の奥の手すら、通用しないというのか、魔王ですら無いヤツに……ッ)」
「これで手詰まりか?」
「ッ……」
「まだ何か奥の手を隠し持っているのなら早めに使うことを勧める。貴様の全てを捻り潰さねば溜飲が下がらないのでな」
ゲルドが詰みにかかる。
なんか、ゲルドに全て任せてもいい気がしてきたなぁ。
まぁ流石にトドメは俺が刺さなきゃならんけど。
「それとも、今度こそ貴様自身が戦うか?……魔王クレイマンよ」
「ッ……そうか、そうだな、魔王、私は魔王なのだ。だから戦い方に拘り、上品に、優雅に、敵を葬ってきた」
「………」
上裸になったクレイマンの足元から黒い瘴気が漏れ出る。
変化は見た目にも表れ始めていた。
さっきまでの人間っぽい見た目から一転、背中から追加で四つの腕が生え、皮膚の質感もおおよそ人外らしいものへと変貌を遂げた。
「久しく忘れていたよ、自らの手で敵を捻り潰したいという……高揚感をな!!」
「ほぅ……少しはマシな姿になったな」
「レイタロウ様……ここはオレが」
「いや、ようやく向こうがその気になってくれたのだ。ここは俺が前に出ねば格好がつかんだろう」
「……かしこまりました、どうかご武運を」
「うむ」
ゲルドとバトンタッチし、代わりに俺がクレイマンと相対する。
クレイマンは、どこから取り出したのかそれぞれの手に武器を持ち、特徴的な仮面を顔にはめて俺と相対した。
「
「魔王―――いや、
「クレイマン……決着をつけるとしよう」
……違和感はずっと燻っていた。
ここ最近の話でない。
数十年前から、もっと言えば、東の帝国を訪れてから。
それでも私は、目を背け続けていたのだ。
そして今だから言えることだが、その違和感は明らかに
今までのゴミムシを見つめるような冷たい目ではなく、どこか私に微笑ましさを抱いているような目。
その目は……私と相対する黒トカゲの目と重なった。
その瞬間、私の中で全ての
「あ、あ"あぁぁ"ぁぁぁ"あ"あ"あ!!!」
「へぇ……自力で『裁定者』に
すまない皆、私は失敗してしまった。
カザリーム様より預かった軍団も、真なる魔王に覚醒するための
『クレイマン、アンタは弱いんだから無茶したら駄目だよ?』
『そうですよ。ちゃんと私達を頼るように』
……あぁティア、フットマン。
私は君達に近づきたかった。
そのためには無茶もする、当然だろう?
『最近無茶しとるんやないのか?……勝負に出るのもええけど引き際は弁えなあかんで?』
ハハ、ラプラス……。
君の忠告通りだ、君はいつも正しいな。
『お前はフットマンやティアと違い、戦闘には向いちゃいない。だが策謀を巡らせて軍団を指揮するなんて真似はお前以外には出来ないだろう。だからなクレイマン……』
……申し訳ございません、カザリーム様。
貴方様のような魔王には成れませんでした。
私は、目の前にいる
「ゔあ"あぁ"ぁぁぁ"ぁぁ"ぁぁあ!!!」
「……万策尽きた、か」
私では到底敵わない怪物、魔王……!
敵わないならそれでいい。
だがせめて、せめて一矢報いなければ……!
泥臭くたっていい、嗤われようと構うものかッ!
君達と生きて再開する……!
そのために渾身のハッタリをかまし、死を偽装してここから脱出を果たすのだ!
私の命は、この瞬間のためにあるのだからッッ!!!
「
「……あぁそうだったそうだった」
喰らッッッ、えェェェェェェ!!!
「君には最期に、
「ッ!!?」
いやはや、本気で逃げられると思ったのかしら?
君の保有する
だから、敢えて避けるような真似はしない。
避ける必要すらない、とでも言おうか。
「……クレイマンの攻撃そのものを吸収しているのか」
「えっ、無防備に見えるけど……?」
「そういう能力なんだろうよ」
ギィの言う通り、これは俺の能力『適応進化』だ。
一度でも触れたり触れられたりした事象への適応を時間をかけて進め、適応が完了した事象を俺の能力の及ぶ範囲で再現する、というもの。
そしてそれは、俺がスキル越しに干渉した人物すらも効果対象となる。
ざっくばらんに説明すると、デモンブラスター?何それ美味しいの?状態である。
「(デ、デタラメな、私の必殺技を受けて傷一つ負わないなど、こいつは正真正銘のば―――)グギャッ!!?」
「さてと、これからクレイマンを殺すが、反対する者はいるかね?」
「好きにしろ」
あっという間に距離を詰め、クレイマンの首を右の掌で固く握りしめる。
これでようやく王手だねぇ。
おっと忘れるところだった、クレイマンからユニークスキル『
うんうん、これで今度こそ王手だねぇ。
「やぁ。
「!?……!!?」
「
「な"っ、な"にを"い"っ"で……!?」
「これからは身辺整理をしておくことをオススメするよ。今夜を境に時代が大きく変わる。魔王はこれまで以上に強くなり、君達の冗長な〝ゲーム〟は終わりを迎える」
体内エネルギーを劇的に急速回転させ、あっという間に膨大な熱量を生成する。
さながら
「ッ〜〜〜!!ッ〜〜〜〜!!!」
するとあら不思議。
クレイマンの体は内側から激しく燃えだし、やがてその全身は白い炎に包まれた。
いやー、いい気味だねぇ。
「近い将来、君達のところに戦争を仕掛けるから精々準備を怠らないようにね。その旨報告よろしくぅ」
パキャッ。
竹でも割るように、木切れを割るように。
握りしめていたクレイマンの首にほんの少し力を加えることで、
残った胴体も力無く倒れ込み、これまた衝撃によって原型を留めないレベルに四散することとなった。
奇しくもその最期はゲルミュッドと重なるものがあった。
喜びは……特に無い。
俺の頭の中を埋め尽くすのは、もしかしたらの話である。
もしも俺が一つでも判断を誤っていたならば、あそこに
そう考えると怖気が走った。
ここでクレイマンに勝てたのは本当に偶然だったのかもしれないし、今回は百分の一の確率を引き当てただけに過ぎないかもしれない。
持てる全ての力を総動員することで、たまたまクレイマン相手に勝つことが出来た。
こんな偶然は二度も起きないだろう。
勝って兜の緒を締めよ、か。良い言葉だ。
これからより一層大胆かつ慎重に動く必要があるなぁ。
……現時刻をもって、魔王改め
そして、強い魔王達による新時代が始まったのである。
クレイマンに、合掌。
そして次回以降から、事態が動き出します。