道化達が策謀を巡らせるよー!って話です。
イングラシア王国。
かの国の自由学園の一室にて、
報告の内容はズバリ、西方聖教会の正体についてである。
「西方聖教会本部には怪しいものは何も無かった。そりゃあ参拝者も来るんや。分かりやすくヤバいものが置いとるわきゃない」
手を組み真剣な雰囲気を醸しながら話を続ける。
「そんでワイは、霊峰の頂上を目指すことにしたんや。法皇しか入れん奥の院ならなんかあるかと思てな。そしたらなんや偉そうな吸血鬼のおっさんが出てきてな、赤い光線ぶっ放してきた思たらワイ、バラバラにされてしもてん!アレはヤバいで、マジで死んだかと思ったわ。つーか死ぬほど痛かったわぁ……」
「いやいや、なんで君生きてるの?」
「コイツは殺しても死なないだろうがね」
ユウキの純粋な疑問にサラッと答えたのはカザリーム。
ラプラスの不死性も気になるが、それを聞くと話の本筋から大きく逸脱してしまうため仕方なく流すこととした。
「問題はその正体や。……神聖なはずのあの場所に、なんで
「ルミナス教のお偉いさんが魔人……それも上位種族である
「………」
ラプラスの話と自らの記憶を結び付け、ある一つの結論に思い至ったカザリーム。
重苦しい雰囲気を漂わせながら、その口を開いた。
「……魔人、どころではないかもな」
「心当たりがあるのかい、カザリーム?」
「赤い光線を放ってきたと言ったな」
「せや」
「それは血を魔粒子化させて放出する〝
「知っとるんか会長!?」
知っているどころではないとカザリームは内心唸る。
「魔王ヴァレンタイン。鮮血の覇王の二つ名で呼ばれる、奴の得意技だ」
「魔王!?……マジでかッ」
「逃げて正解よラプラス。奴は全盛期の俺と互角だった男だからな」
「ひょえぇぇぇ……」
「昔、奴とは何度か殺り合った。そのたびに周辺の里や集落なんかが巻き込まれてな。それで話し合い……多数決で決着をつける風習が生まれたんだよ」
「もしかして、それが
「えぇ。三名の票で発議というのは、魔王が七
「会長、口調がメチャクチャでっせ!」ケラケラ
「黙りなさい、このクソ野郎」
カザリームとラプラスの掛け合いもそこそこに、シュークリームを口いっぱいに頬張りながらユウキは思案する。
「……じゃあそいつが魔王ヴァレンタインなのは事実として、なんで
「あの男、ヴァレンタインは人間や亜人を餌としてしか見ていない。そんな男が人類の守護者を名乗っているのだとしたら、何かがあるのでしょうね」
「んー、せやけど、どうやってヒナタの目を誤魔化しとるんや?……法皇が魔王なんて知ったら、あの魔物絶対許さへん女が黙ってるはずないやん?」
「だから〝何か〟があるんだろ。……どうあれ、この情報は使えるね。お手柄だよラプラス!」
ユウキに褒められ、何とも気恥ずかしそうに仮面をポリポリと掻くラプラス。
話題外しも含めて、ラプラスはあることを尋ねた。
「ワイの報告はこれで終わりやけど、クレイマンのヤツは上手いこと覚醒できたんでっか?……ファルムス王国になんやさせる言うてましたやん?」
「あぁそれね。……ほら、あの国って異世界人を大量に抱え込んでるじゃん?そろそろ力を削いでおこうと思って、
「……結果は?」
ラプラスの問いに対し、ユウキはやれやれと身振り手振りを行う。
「詳細は全くもって分からないけど、三十分もかからずにまさかの全滅。ちょっと力を削ぐつもりが、殆ど削げちゃったよ」
「は、はぁぁあ!?ファルムスの連中はそないに
「いや、そんなことは無いよ。二万の軍勢でもってノリノリで侵攻したみたいだし。……いやホント何なんだろうね。僕としては二万の軍勢が滅ぼされたことより、
「……あの人?ヒナタに圧勝?何のことや?」
「あのスライムがヒナタをボコボコに叩きのめして連れ去っちゃったんだよ。せっかく
思わずポカンとするラプラス。
西側諸国最強の実力者と名高いヒナタ・サカグチをボコボコに叩きのめして、あろうことかその身柄を攫った。
もうそれだけで意味が分からない。
アレは下手な魔王をはるかに超えた人間側の化け物であるとラプラスは認識しており、そんな彼女に勝てる存在がいるとするならば、それこそ魔王ミリム・ナーヴァや魔王ギィ・クリムゾンのような……。
「……あ、ほな人間の魂は集まったんちゃうか?」
「いや、魂はひとつたりとも残留していなかった。どうやら先を越されたらしいわ」
「というワケで、クレイマンの覚醒に必要な魂の回収は失敗。虎の子の
「踏んだり蹴ったりよ全く……」
「あらら……(ワイもてんやわんやしとったけど、
「ワタクシの
「……まぁでも、結果的にファルムスが負けてくれて好都合かな」
ポスポス…「どういうことでっか?」
「詳細はまだ掴めていないが、二万もの軍勢をあっという間に屠った国だぞ?加えて聖人ヒナタ相手に勝利を収め、あろうことかその身柄を攫った。……御大層な教義を掲げている西方聖教会が野放しにするワケにはいかないだろう」
「そして、それほどの国を相手にするのなら、ヒナタ以上の大物を出さなくちゃならない」
「なるほど、西側諸国を掌握する上でもっとも邪魔なんはルミナス教。西方聖教会の目を引き付けてくれる魔物の国の存在は……」
「そう、むしろ都合がいいってこと」
得心したように先程までお手玉代わりにしていたシュークリームを頬張るラプラス。
思い描いていた絵図とは異なるモノになってしまったが、その程度の軌道修正なら問題は無い。
「想定外なことは起こったけど、僕らの計画自体は狂ってない。ただ……」
「一番の想定外は貴様の報告よ、ラプラス」
「ひょ?」
「西方聖教会をもっと調査したいところだけど、魔王ヴァレンタインがいるとなると迂闊なことは出来ない。もう一度潜入してもらうつもりだったのに……」
「(なんやワイが悪いみたいになっとる、理不尽やん……)まぁ魔王をおびき出すだけやったらなんとかなるんちゃいます?」
「「 ? 」」
ラプラスは
「ちょうど今夜、噂の黒トカゲが発議した
「え待って、初耳なんだけど?」
「およ?クレイマンの奴言っておらへんかったんか?」
「……今夜ワルプルギスが開かれるならまさに絶好の機会だな。ラプラスにしては冴えてるじゃない」
「せやろー?」
ラプラスの立てた奇策に思わず感心するカザリーム。
敵が何を思って
そうして、休む間もなく再びラプラスは、西方聖教会の調査に乗り出すこととなった。
「虫ケラめが……余の前に今一度姿を見せるか」
「ひょえぇぇぇ……(
そして新月の夜。
つまり
暗闇の奥より、無数のコウモリが寄り集まって人の形を成し、それはやがて見覚えのある人物へと早変わりした。
自らの体をバラバラに引き裂いた魔王ヴァレンタイン。
頭で考えるよりも早く、体が逃走を選択した。
「フンッ、虫ケラは皆、逃げ回るのが好きだな」
「っ……」
……が、魔王ヴァレンタインの含みのある言葉を受けて、ラプラスは足を止める。
そんなはずはない。
そんなワケがない。
そんな一縷の希望に縋るように、ラプラスは振り返った。
「……何の話や」
「フッ、貴様には関係ないが冥土の土産に教えてやろう。つい先程、クレイマンが死んだのだよ」
「 」
「あの愚かで姑息なゴミ虫も逃げ回っておったぞ!無様に泣き叫びながらな!!」
「……なんやと」
「見ず知らずの男の死がそんなにショックか?」
「黙らんかい!クレイマンが死んだっちゅうんは本当なんか!?」
「はーっはっはっは……語るに落ちたなゴミ虫めが!!やはり貴様らは繋がっ―――」
「何を笑っとるんじゃ、クソボケがッ」
「ッ〜〜〜!!?」
頭で考えるよりも早く、体が闘争を選択した。
魔王ヴァレンタインとの間合いを一瞬で詰めたラプラスは、その憎き顔面に渾身の一撃を叩き込み、血反吐をぶち撒けさせた。
「かッ……虫ケラが、誰に向かって―――ゴブゥ!!?」
再度、顔面に拳撃を叩き込む。
堪らず体勢を崩した魔王ヴァレンタインの隙を突くようにラッシュを喰らわせていく。
何度も。
何度も何度も。
何度も何度も何度も。
「ド阿呆がッ!ワイのッ、友達をッ、笑うなちゅうとんじゃいッ!!」
「グッ……調子に乗るなよ貴様ッ!
最初こそラプラスにペースを持っていかれたが、魔王ヴァレンタインも流石と言うべきか、今度はこちらの番と言わんばかりに必殺技を喰らわせようとして―――不発に終わってしまった。
「っ……(発動しない!?いや、それどころか動くことすら……ッ)」
「無駄や、お前はもう死んどる」
よく見ると、ラプラスの手に
……それが自分自身の心臓であると気付いた時点で、魔王ヴァレンタインの敗北は決定していた。
「せや、これはお前の
「(馬鹿なッ、余がッ、恐怖しているというのか!?こいつ只者では―――)」
「気付くのがちぃとばかり遅かったな。……せや、ワイは強いんや」
「(やめ―――ッ)」
その手に握る心臓を、容赦なく握りつぶす。
直後大量の血を吐き散らかし、魔王ヴァレンタインは跡形もなく消滅した。
その後自分が何をしたのか、ラプラスは朧げにしか覚えていなかった。
頭が真っ白に染まり、何かを考える余裕すら無かった。
……真っ白、真っ白と言えば、クレイマンのこと。
「(なにしとんねん、クレイマン……)」
ザクッ、ブシュッ、グチャッ、ザクッ……。
視界が次第に赤黒く染まるが、ラプラスの頭の中はそれでも白く染まっていた。
「(フットマンは怒るやろ。ティアは泣くやろな)」
この場にいない二人を想う。
あの二人は単純だから、クレイマンの死を知ったら分かりやすい反応を示すのは目に見えている。
「(しゃーない、ワイが笑ったるわ)……はははッ」
享楽の道化はひたすらに笑う。
今は亡き
「ひゃっははははッ、はははは、ひはははッ!!はははははッ、ひはははははは!!あ―――はははははッ」
ラプラスは不器用に笑う。
今は亡きクレイマンを想って。
「(お前は本当に馬鹿やったな、クレイマン……)」
血に染まる聖域にて、道化はひとり
……そしてそれは、裏で暗躍し続けていた道化達の終わりの始まりを告げる鐘の音でもあった。
……道化共の策謀なんて、レイタロウさんにはお見通しってことです。