事態がメチャクチャ動き出すって話です。
今回は三本仕立てですよ。
「うそだ!!そんなことがあるワケがない!!嘘だと言ってください、カザリーム会長……!!」
西側諸国一帯を激しい降雨が襲う中、ここイングラシアのとある建物の一室にて、一人の
道化の名は
クレイマンやラプラス、ティアなどが所属する中庸道化連の一員である。
「……本当だ。クレイマンとの繋がりが途絶えた。もうアイツの魂を感じない。
クレイマンの身に何かあったとするならば、それはもはや
おそらくクレイマンは、ほかの魔王によって
カザリームは目の端に涙を溜めながらも、感情を必死で押し殺してそう推測した。
……とその時、ドアの奥より中庸道化連のボスとなったユウキ・カグラザカが現れた。
手にはタオルを持っている。
「ほら、拭けよ。雨と返り血でずぶ濡れじゃないか、ラプラス」
「………」
ルベリオスからイングラシアまでとんぼ返りしてきたラプラスであったが、その表情は仮面越しでも分かるほどに虚無に染まりきっていた。
このアジトに帰ってきてからずっとダンマリを決め込んでおり、フットマンやティアはどうしたものかと考えあぐねいていたのだ。
「で、でもさ、ラプラスが無事で良かったよ!ヴァレンタインって昔会長と互角だった魔王でしょ?よく勝てたよね!」
「……
「えっ……?」
「ラプラス!そんな言い方は無いでしょう!?」
ラプラスのあまりに予想外な発言に、ティアは困惑し、フットマンは怒りを露わにした。
「事実や。忠告無視して弱いくせに調子に乗るから、アイツは死んだんや」
「あなたという人は……!!」
「やめろッ!!」
同じ仲間を愚弄された怒りから突発的に襟を掴んで殴りかかろうとしたその時、カザリームからの一喝を受けて我に返ったフットマン。
……そんなに殴ってほしかったのか、何ともバツの悪い表情でラプラスはカザリームを見やった。
「……悲しいのは皆同じだ」
「そうだね、そういうのは雇い主である僕の仕事だ。一人で悪役になろうとするなよ、ラプラス」
「……そういう意図でしたか、すみませんねラプラス」
「ええて。……でも、見透かされちゃカッコ悪いですやん。殴っとけやフットマン」
事情を理解した今、ラプラスを殴る意味などない。
とはいえ、仮面が軽く凹む程度の優しいグータッチなら快くしてあげたが。
雨が止み、イングラシアに陽の光が差し出した頃、ようやく道化達も落ち着きを取り戻すに至った。
……カザリームからの予想だにしない発言を受けて仰天することとなるが。
「……実は、クレイマンに託していた拠点も例の黒トカゲに奪われてしまった」
「なんやて!?」
「もちろん軍も財宝もね」
「マジか……」
「そういうワケで、全ての作戦は一旦休止。手は出さずに様子見を決め込む」
「そうね、黒トカゲに加えてスライムという予測不能な要素がある以上、しばらくは大人しくしているべきだろう。少なくとも今回の痛手がある程度まで回復するまでは」
すぐにでも復讐できないのが口惜しいが、今はそれが最善の選択だろう。
カザリームの言葉に一同納得する。
……が、それに待ったをかけたのはユウキであった。
「……とはいえ、やられっぱなしは癪だよね。クレイマンから全てを奪った例の黒トカゲには、少しくらい仕返ししておこうと思うんだよ」
「え、でも今しばらく大人しくしようって……」
「手は出さないけど口は出してもいいだろ?」
「何をする気なんだ?」
「やれやれ、また何か悪巧みでっか?」
「一つ、仕掛けてみようと思う」
今は亡き友のため、道化達のボスは策略を巡らせる。
……それが
いやー、道化達が踊り狂う様を見ながら飲む
「こちら、黒毛虎の煮込みシチューでございます」
緑髪のメイドことミザリーが運んできた料理を見て、俺も内心では小躍りしていたが。
やぁ皆おはよー!
俺はジュラ・スターモンズ連邦国の国王にして、
多少ごたついた
ま、挨拶もそこそこに食べてみるとしましょう。
パクッ、これは……。
舌の上でほどけた肉がソースとよく絡まって、もう少し味わっていたいと願うその一歩手前で儚く消えてしまう。
次の一口を渇望させるその演出まで込みで、これはもう文句なく美味い!!
この美味さを再現するためにも、リムルさんを介してシエル先生に転送して……。
《了。レシピを解析いたします》
流石です、シエル先生。
これで俺は遠慮なく料理を堪能できるワケだ。
しかし勿体ないよなー。
こんなに美味しい料理がお出しされてるのに、レオンはすぐに帰っていっちゃったし、ロクに喋れずに別れてしまったのが悔やまれる。
それはそうと、このギィ主催の食事会だ。
未知のマナーがあるのかと思い最初は身構えたものの、ミリムのドカ食いっぷりを見る限り、作法は気にしなくても良さそうだった。
そもそも席順もテキトーだしねぇ。
「あ、ミリム、それ俺が持ってきた酒じゃないの。飲んでも大丈夫なの?」
「わはは、大丈夫なのだ!こう見えてもワタシは酒に強いのだぞ?」
「……没収ぅ」
「わー!?何をするのだぁ!!?」
ミリムが酒を飲んでるところは見たことないけど、仮に酔っ払って周囲の物をぶっ壊したら事だ。
何より俺が持ち込んだ酒だし、俺が胃袋に流し込んで処分せねばなるまいよ。
「本当に旨い
「よく分かるなギィ。……果実の輸入で最近やっと安定して造れるようになったのさぁ」
「ではもう一本いただこう!」
「……なんでヴェルドラさんが此処にいるのぉ?」
アンタは帰ってからでも飲めるでしょ全く……。
「勿体ないのぅバレンタインめ。あやつは絶対気に入るだろうに」
そういえばルミナスも先に帰っちゃったんだよな。
まぁレオンと違って彼女が帰った理由はおおよそ見当がつくけどねぇ。
《告。分析が終了しました。コース料理の再現が可能となりました》
八人の最強魔王の呼称も決まり、世界最高峰のレシピも手に入れ、帝国上層部を大混乱に陥れるという嫌がらせも達成できた。
「はらほろれれ〜、トレイニーちゃんが三人にみえる〜」
「ラミリス様、お気を確かに!」
「レイタロウ様帰ってしまいますよ!?移住の件もう一度言ったほうが……あ、少々お待ちをッ!!?」
「いつ来てくれても良いとラミリスに伝えておいてくれ。俺達はもうオサラバさせてもらうよ」
酒を飲んで酔いつぶれたラミリスを放置し、俺はリムルさん達を連れて円卓の間を後にした。
これにて
……ルミナスが約束を守ってくれることを祈るばかりだ。
争いのない平等な社会。
ここでは皆が幸福に生きることが許される。
管理者を神に委ねることで実現する完全な平等性。
それが神聖法皇国ルベリオスという国の在り方。
私の生き方を決定づけた〝神〟の理想を体現する唯一のやり方。
弱者が強者に搾取されず、誰もが笑顔で、自由が無いことに不満も疑問も抱かない。
凄いことだと思う、けれど――――――……
「……………………ルミナス様?」
「チッ、目覚めるのが早すぎじゃ。この馬鹿たれめ」
えっと、此処はどこ?
なんでルミナス様が隣で寝そべって……?
私は確か、イングラシア王国の近くでリムル=テンペストという魔物と戦って、そして……。
「えい」ピンッ
「あぅ」
突然、ルミナス様がデコピンをしてきた。
地味に額が痛い。
「フンッ、妾の寝所で寝ておった不敬はそれで帳消しにしてやろう。……じゃが、そなたには色々と問い詰めなければならぬことがある」
「……はい」
デコピンを喰らったことで、ようやく全てを思い出すことが出来た。
私はリムル=テンペストと戦い、そして負けたのだ。
「……というのが昨夜の
私ことヒナタ・サカグチがリムル=テンペストに敗北してから
豪奢なソファーに寝そべりながら
「あの忌々しい邪竜が、どこまでも妾の邪魔をしてくれたわ。ロイもロイじゃ!……妾の目の届くところであれば生き返らせてやったものを」
「……申し訳ありません。私が
「……良い。そなたにあの国の、否、あの黒き怪物の脅威を正しく伝えきれなかったことがそもそもの原因じゃ。責めを負うべきは妾であろう」
「いいえ、弟がルミナス様の期待に応えられなかった結果です。どうかお気に病まれませんよう……」
ただただ、自らの弱さが憎い。
シズ先生を殺した仇に一矢報いるどころか、まるで児戯であると言わんばかりに終始圧倒され続け、あろうことか
ルミナス様の御前でなければ、今頃腹を切り裂いて自害していたかもしれない。
「……今は喪失を嘆いている時ではないな」
ロイの死を悼んでいる余裕は無い。
そう言わんばかりにルミナス様は口を開いた。
「
「はい」
「心得ました」
決定事項。
……ルミナス様のその言葉に嫌な予感を覚えてしまう。
「
「っ、それは、まさか……」
「口を慎めヒナタ。今は妾が話しておる」
「はっ……」
理解ってしまった。
これこそが、おそらくは、私の身柄を解放するための条件の一つなのだろう。
「……少々気が立っておった。発言を許す」
「無礼を承知でお伺いいたします。ジュラの大森林に現れたかの国を人類の脅威として認識させ、神敵として扱ったほうがこちらへのメリットは大きいかと存じます」
「確かにな。ロイ亡き今、信仰心が薄れる可能性はある。ならば我らの良き共犯者として迎え入れるか。……否、それは無理じゃろうな」
無理とまで言い切り、ルミナス様はワイングラスを置いてツマミに手を伸ばされた。
「あのレイタロウという新参の魔王はな、皆が幸せに暮らせる国を造りたいそうじゃ。それには人間の協力がどうしても必要だから自分が守ると、妾達を前にして大見得を切りおったぞ。……行く手を遮るのなら人だろうが魔王だろうが聖教会だろうが完膚なきまでに踏み潰す、とな」
「……であるならば、私からは異論はありません。ただ懸念があるとするならば信者への説明や、七曜が……」
「あぁ、七曜のほうは問題ない。あやつらには
「は?……かしこまりました」
ルイのほうは多少訝しみながらも了承する。
「ヒナタよ。そなたもまた聖騎士共に自分の身に起こったありのままを話すがよい。
「かしこまりました」
「……そなたが自己を見失わぬ限り、妾からそなたを切り捨てたりはせぬ。
その瞬間、私の中でパズルのピースがカチリとはまった気がした。
と同時に、私の敗北が及ぼした影響とルミナス様が下した決断の重さを思い知らされることとなる。
……あぁ、叶うのならば、過去に戻りたい。
かつての自分を殴ってでも止めたい、そんな心持ちだ。
しかし、もはや止めることは叶わないだろう。
ルミナス様はレイタロウさんとどんな話をしていたのか、その詳細はまた別の機会に……。