ディアブロの報告を聞くって話です。
悪魔と謀略
「お帰りなさいませレイタロウ様!!リムル様!!」
「この度は
……なんで知っての?とか、君ファルムス攻略は?とか、聞きたいことは割と沢山あるんだけど……。
住民達の一矢乱れぬ忠誠のポーズは何なの?
町に帰ってきたらこれだよ。
いつ練習したのさ……。
「ちゃんとレイタロウ様の護衛を務められたようですね。流石はゲルド殿」
「うむ。ディアブロ殿のほうもレイタロウ様より与えられた仕事は順調か?」
「勿論ですともッ!!」
ははは……おはヨッピー。
俺はジュラ・スターモンズ連邦国の国王にして、
……よし、早着替え完了。いつもの私服姿だぜぃ。
「それで、君はなんで此処にいるんだディアブロ?まさかファルムス攻略でトラブルでも起きたのか?」
「いえいえ、とんでもございません。全て計画通り順調に進んでおります。……つきましては、経過をご報告してもよろしいでしょうか?」
「うむ、話せ」
「(例のごとく、やり過ぎてる予感がするな……)」
ソファーで寛いでいるリムルさんの隣にドカッと座り、俺はディアブロの口からファルムス攻略の一部始終を聞くこととした。
「まず、シオン殿の『
「おぉ、あれからちゃんと元に戻ったよな?」
「はい。効きが悪かったため
「(オェ……あの肉塊から元に戻ったのか。マジで良かったなファルムス三人組)」
リムルさんが気色悪そうな表情を浮かべながら紅茶を啜っている。
まぁしょうがないよね。
地下牢に繋がれていた三人組の様子を見に行ったら、そこにはグロテスクな肉塊が転がっていたんだもの。
その中心でニコニコ笑いながら剛力丸を担ぐシオンの姿があるもんだから、場所と状況も相まって恐ろしいなんてもんじゃないよね。
「その時ラーメン、いえ、ラーゼンから服従の申し出がありまして、後から残りの二人も服従を誓ってきましたので纏めて『
「あの三人、ファルムス王国内ではそこそこの地位についているらしいからな。利用しない手はあるまい。それはそうと、こちらに不利な証言をする可能性は?」
「心配には及びません。レイタロウ様より与えられし御力によって私の
「なら問題ないな」
「(まんま魔王と悪魔の会話だな。……それにしてもラーメンか、久しく食ってないなぁ)」
ディアブロの報告は続く。
ヨウム君共々ファルムス王国に到着したディアブロは、手始めに異形と化した
当然、王宮は上を下への大騒ぎ。
神官が回復薬を携えてやって来たが、
そして、混乱と恐慌が支配するその場に現れたのが、王宮魔術師長のラーゼンであった。
「ラーゼンの口からヴェルドラ様の復活を知らされた貴族達の驚きようは非常に滑稽でございました。と同時に、彼らはその証言を信用するほか無いのです」
「俺が大まかに描いた筋書き通りになったワケだな」
「はい。ですが少々手を加えさせてもらい、ファルムス王国軍二万人分の魂はヴェルドラ様が喰らった、といったニュアンスでヨウム殿に伝えさせました」
「(レイタロウさんに遠慮したのか……あるいは必要以上に人間を恐れさせないための嘘ってところかな)」
「……結界で弱らせた上で本気で戦い、その上でヴェルドラさんと交渉できるようになったと周知されれば、必要以上に恐れられることもない、か」
まさかファルムス王国軍二万人分の魂を消費するまでもなく、とっくの昔に真なる魔王に覚醒していたなど向こうさんは知る由もないだろうしねぇ。
ちなみに、その二万人分の魂はいまだ使わずに手元に取っておいてある。
ゲルドの
「ファルムス王国軍の前に復活を果たしたヴェルドラ様が現れ、その
「……
「はい。レイタロウ様の領土に土足で踏み込んできた愚か者共にはヨウム殿がキツく釘を差しました。その上で和睦協議にまで話をスムーズに持ち込むことが出来たのです」
話を聞く気になった貴族達の前でエドマリス王を元通りにしてあげたディアブロは、俺より預かった伝言を公に読み上げた。
内容を簡潔に纏めると……。
・講和条約の締結に伴い、三つの選択肢を用意した。
一つ……王が退位し、戦争賠償を行うこと。
一つ……
一つ……戦争を継続すること。
……という具合になる。
この条件の中から一週間のうちにひとつを決めろっていうのが中々鬼畜なところだよねぇ。
ま、そうしろと命令したのは俺だけど。
「それで講和の条件ですが、賠償金として星金貨一万枚を吹っかけておきました」
「ッ〜〜〜!!?」ブフッ!!
「なんだ、君のことだからもう少し吹っかけると思っていたが、随分と控えめだな。……リムルさん大丈夫?」
「ッ〜〜、そりゃお前、国が傾かないか?」
「クフフフフ、問題ございませんよリムル様。彼らは賠償に応じるしかないのです。戦争継続が不可能なのは言うに及ばず、属国になるのも貴族達が納得しません」
「三つの選択肢を与えておきながら、実質一択ってワケか」
「その通りでございます。貴族達の一部は王に全ての責任を押し付け、賠償を逃れようとするでしょう。ここでファルムスは国王派と貴族派に二分されます。貴族派にとって都合の良いことに、王を守る騎士団はもういません」
武力を持たない国王派は貴族派の言いなりになるしか選択肢はなく、それをどうしても回避するためにはヨウム君を国王派に引き込まなければならないと……。
「いくら英雄ヨウムがファルムス国内で人気があると言っても、いきなり王位を譲渡するには無理がある。そこで国王派の助け舟として彼を派遣し、国を救ったという実績を作り出せば国民も納得するだろう」
「あぁ……なるほど」
「ご明察恐れ入ります、レイタロウ様」
「ということは、内戦が起きそうになったら戦力を貸し出せばいいワケだな?」
「はい。時が来ればラーゼンより連絡が入る手筈となっておりますので、その時はよろしくお願いします」
なるほどね。
あまりに早い帰還だったからてっきり武力によるゴリ押しで決着をつけたんじゃないかと心配してしまったけど、やはりそこは悪魔、人間の考えを理解した上で狡猾に物事を進めていたワケだ。
「流石はディアブロ。人間の心理や弱さにつけ込んだ周到で見事な計画だ」
「お褒めに与り光栄でございます、レイタロウ様」
「……そこでだ、その計画に是非とも
「彩り……と申されますと?」
「都合良く
「……クフフ、やはりレイタロウ様には敵いませんね」
「有能な配下が居てこそさ」
ルミナス・バレンタインと交わした密約に従ってヒナタ・サカグチを解放した。
だからこそ、俺も
フッ、精々最期までこき使ってやるさぁ。
……これはあくまで余談だが、どうやらヴェルドラさんがファルムス王国に出張中のディアブロに俺が
そこに暴風竜の威厳なんてものは全くなかった。
一方その頃、ファルムス王国の上層部は紛糾していた。
「属国などあり得ませんぞ!事実上ファルムスの消滅ではないか!」
「我らの立場も保証されぬ上、魔物に従うなど!」
「では賠償に応じると?星金貨一万枚じゃぞ!?」
「金貨にして百万枚相当、我が国の税収の二十パーセントに相当しますな……」
穏やかで美しい街並みだったと、エドマリス王はその目に焼き付けた魔物の町を思い起こす。
あの光景の一部になれるのなら、属国も或いは悪くはなかったかもしれないが、目の前で繰り広げられている遅々として進まない会議を見て無理だろうと確信してしまった。
自分も少し前までは周りの貴族達と同じ浅ましい俗物であったがために、自らの保身を優先する彼らの気持ちが痛いほど理解っていた。
故に、属国は無理なのだ。
「……良いか皆の者、余の考えを聞いてほしい」
だからこそ自分は生かされたのだ。
全てはこの時のためにあったと、エドマリス王は遅きに失しながらも言葉を紡ぐ。
「此度の戦は失敗であった。余は民のためではなく、己の欲望のために進軍を決めた。……賢く、先を見据えた者達からの助言もあったというのに」
「兄上……いや王よ、誇り高き王が負けを認めるのですか?」
実弟であるエドワルド公爵から意地の悪い質問が飛んでくるが、エドマリス王は何とも面白いものを見たと言わんばかりにクツクツと笑い出した。
「フッ、誇りだと?エドワルド……そんなもの、暴風竜の前では塵芥に等しいわッ」
そして、真実は更に残酷だ。
「居合わせなかった者も聞いたであろう?……余がどのような姿になって帰還したか。同じ目に遭いたいのか?」
「っ……」
「誇りも名誉も、幾らあったところで民の盾にはならぬ。だが卿ら全員に貴族としての誇りを捨てよというのは無理な話。魔国の属国に下るという選択肢は選べぬだろう」
故に、残された選択肢は二つに一つ。
賠償に応じるか、戦争を継続するか……。
「余が言うのもなんだが、願わくば民のための選択をしてほしい」
「(あの欲深な王が、何があったとい―――)」
「申し上げますッ!!」
その時、伝令の者がこの会議の場に現れる。
「なんじゃ!?今は大事な……」
「お、お許しを!ギルドより最重要緊急伝達書でございます!魔王の勢力圏に大きな変動があったと!」
「「「「 ッ!!? 」」」」
会議の場に緊張が走る。
「
「オクタグラム……」
「八
「数が合わぬようだが、あと
「最後の
「なっ、何ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!?」
誰に喧嘩を売ったのかをようやく思い知った貴族達を呆れ気味に見つめながら、エドマリスは王としての最後の職責を果たすべく口を開く。
……その際、ファルムス王の証である王冠を外して。
「……決まりだな。暴風竜以前に魔王レイタロウもまたけして侮れぬ脅威。取れる選択肢はもはや一つしかあるまい」
「ッ……!!」
「賠償に応じ、余は退位する。そして後継者にはエドワルドを推す。……この先ファルムスには困難な時代が訪れよう。頼んだぞ、我が弟よ」
「(落ち着け、笑うのはまだだ)……はっ、まずは皆の意見を聞かねばなりませんが、異論がなければ謹んでお受けいたします。兄上」
……あまりにも予定通りに進む事態に、エドマリスは元よりラーゼンすらも呆れを覚えてしまった。
これが、かの魔王レイタロウの恐るべき智謀からもたらされた大いなる謀略の一端だと言うのだから、もはや感心する以外の反応を示すほか無かったのだ。
ファルムス王国滅亡まで、あと少し……。
ちな、ラーゼンは老人姿のままです。