「いやぁ、本当にお久しぶりです。モモンガさん」
「正直、来てもらえるなんて思ってもみませんでしたよ、へろへろさん。……2年ぶりぐらいですかね?」
「えぇ、もうそんなに経っているんですねぇ。このギルドにはいろいろな思い出がありますからね。サービス終了してしまうなんて、本当に悲しいですよ」
へろへろさんは、少し寂しそうに笑う。
「……あ! そういえば、あの子はまだ元気ですか? えっと……なんでしたっけ。ほら、みんなで最初の方に作ったロマンビルドの……」
「あぁ、ラプラスですか?」
「そうそう! ラプラス君ですよ!」
へろへろさんは懐かしそうに声を弾ませる。
「あの子を作っている時が、一番楽しかったなぁ……」
「っと、そろそろ僕は寝ないと。明日も仕事がありますからね」
そう言って、へろへろさんは立ち上がる。
「それでは、モモンガさん。またどこかで会えたら」
「はい。またいつか」
その言葉を最後に、ナザリック地下大墳墓からへろへろさんのアバターが消えた。
今日はユグドラシルのサービス終了前、最後の日。
結局、最後にナザリックへ訪れてくれたのは、へろへろさんだけだった。
「みんな、薄情なものだな……」
そう思いかけて、すぐに考えを改める。
……いや、違う。
誰も自分を裏切ったわけではない。
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の加入条件は、異形種のアバターを使用していること。そして、社会人であること。
だから仕方がないのだ。
みんなには、それぞれの人生がある。
仕事があり、家族があり、守るべき日常がある。
自分だって、それを理解している。
さて。
サービス終了まで、残された時間はわずかだ。
最後に、NPCたちへ何かしてやることにしよう。
廊下で待機していた戦闘メイド・プレアデスたちへ指示を出し、玉座の間へ向かう。
扉を開ける。
そこには、ギルドメンバーたちを象徴する旗が掲げられた、荘厳な空間が広がっていた。
そして、その中央。
玉座の前には、アルベドが静かに待機している。
玉座へ腰を下ろし、彼女の設定データを確認する。
(……どんな設定だったっけ?)
表示された文章を読み進める。
(……って、長っ!?)
アルベドの膨大な設定文。
そこには、製作者が込めた様々な思いや、キャラクターへのこだわりが詰め込まれていた。
そして、最後の一行。
そこに書かれていた文章を見て、モモンガは固まる。
(……え?)
(……ビッチって……さすがに酷すぎないか?)
ギルドメンバーが作った大切なNPC。
もちろん、それも含めてキャラクター性なのかもしれない。
しかし――。
(最後の日くらい、少しくらい変えても許してくれるよな……)
そう考え、最後の一文を削除する。
そして、新たな文章を入力した。
『モモンガを愛している』
ウィンドウを閉じる。
玉座の間の天井を見上げた。
気づけば、サーバーダウンの時間が迫っていた。
静かに目を閉じ、その時を待つ。
だが。
いつまで経っても、ログアウトさせられなかった。
(……何が起きている? サーバーダウンの時間が延長された? いや、そんなはず
は……)
周囲を見渡す。
NPCたちが、まるで本当に生きているかのように動いていた。
それからは、様々な方法で現状を調べた。
そして、最後の手段としてアルベドの胸に触れようとした、その時――。
「なぁなぁ、モモンガ様。そない感触を確かめたいんやったら、ワイのピエロ鼻でも触りますか?」
アルベドの陰から、黒いピエロのような仮面をつけた男が現れた。
(そうか……この子は)
「何か用か、ラプラス?」
「モモンガ様、アルベドはんの胸を最初に触るんはワイや。いくらモモンガ様でも譲れんで!」
ナザリック大墳墓に存在する、最上位級NPCの一人。
ラプラス。
確か、にしきえんらいさんがレベル構成を中心に作成していたNPCだ。
この子は、他のNPCたちとは少し違う。
みんなで相談しながら作り上げた存在だった。
お調子者で、いつもへらへらしているという性格設定は……確かダブラさんが考えたものだったか。
「……っち。よくも邪魔したな、この道化が!!」
そんなことを考えている間にも、アルベドの裏拳がラプラスの顔面へ迫る。
「そんな怒らんでもええやん? 美人が台無しやで」
しかし、ラプラスはそれをいとも簡単にかわす。
その余裕の態度が、さらにアルベドの怒りに火を注いだ。
「そ、それでな? 実はモモンガ様について行こうと思ってな。アウラたちのところに行くんやろ? 連れてってや」
ラプラスが突然そんな提案をしてくる。
特に不都合はない。
ならば、断る理由もないだろう。
「よし。では、ついてこい」
モモンガが許可すると、ラプラスは笑みを浮かべる。
そして次の瞬間。
ラプラスの姿は、モモンガの影の中へと沈んでいった。
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気づいた時には、自分がピエロになっていた。
……うん? 意味が分からないって?
俺もだよ。
いや、本当なんだって! 昨日、転スラを読みながらオバロ一期を見て、そのまま寝落ちしたんだ。そしたら、起きたらこうなってたんだって!!
……と、とりあえず周りを探索しよう。
今のところ部屋の内装は洋館みたいな感じだけど、ここはどこなんだろうか?
部屋を出て廊下を歩いていると、前から黒髪長髪のメイドが歩いてきた。
その瞬間、俺はすべてを思い出した。
いや、もともと記憶はあるよ? 記憶喪失系主人公じゃないからね?
この"体"の記憶って意味。
記憶を取り戻したなら話は早い。
ナーベちゃんに絡みにいこ。
「そいそいそい、ナーベちゃん! ワイを無視とは、いい度胸しとるなぁ!!」
ナーベちゃんに抱きつこうとすると、顔面にげんこつが直撃する。
「邪魔」
「ちょ、本気の拳はしゃれにならんて!!」
ナーベちゃんと戯れていた、その時。
俺の脳内に電流が走った!!
(アルベドの胸がもまれようとしている!!)
俺は慌ててスキルを発動し、アルベドの影へ転移する。
ここは原作主人公との初対面だ。
だから、ばっちり決めていこう!
そう意気込んでラプラスをロールプレイした結果――
……盛大に滑りました。
アルベドは隣でキレてるし。
どうしよ。
……せや。
原作主人公についていこ!
名前:ラプラス
種族:グレーター・ドッペルゲンガー(Lv15)
総合レベル:100
【職業】
暗殺者 Lv10
盗賊 Lv10
忍者 Lv10
影踊り Lv10
幻術師 Lv10
道化師 Lv10
死への反逆者 Lv25
【保有スキル】
■影渡り
影から影へ瞬間移動する。
■死への反逆者
死に値するダメージを受けたとき、一度だけ瀕死で耐える。
『弱い。
でも、刺さる相手にはとことん刺さる。
勝率じゃない。"記憶に残る勝ち方"を目指したNPC。』
――にしきえんらい
『その25レベルを火力職に回した方が強い。』
『一回耐えても多段攻撃なら普通に死ぬの草』
――あるYGGDRASILプレイヤー