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明治四十年、1907年2月中旬────。
私は北海道の小樽に来ている。
母様のやり残した事。妹の興した異能大家「糸色家」の寄越してくれた妹の第三子の出産をお祝いするため、それから陸軍第七師団に所属する夫を迎えに来た。
……その筈なんだけど。
「クゥーン」
「ん、由竹は邪魔」
「タハー!しとりちゃんたら、辛辣ぅ!」
ゴツンと刀袋に仕舞った竹刀を振りかぶって、アイヌの
「あと私は歳上だから敬うべき」
「いや、三児の母なのは知ってるよ?でもさあ、俺より歳上って言うのは流石に冗談でしょう」
「ん。もうすぐ三十路。色香のあるマダム」
母様みたいに妖しさを纏う妖艶な女にはなれなかったけど。こうしていたら、色んな事を知っている母様の事を知ることだって出来るって信じている。
「ところでさ。しとりちゃん、あそこで男を裸にひん剥いて絵を描くアイヌと男をどう思う?」
「変態と女の子だね。父様が言ってた、男は狼。小さな女の子を自分好みに変えるって」
私の言葉が聴こえていたのか。物凄い速さで身振り手振りと身体を動かし、必死に否定する男の服装に気付き、ザクザクと雪を踏みつけて、歩く。
「それ、剣路と同じ服。第七師団?」
「い、いや、俺は第一師団に居たから知らないよ。あと男は狼とかそうい変なこと言うのはやめてね?アシリパさんに誤解されるから!?」
アタフタと叫ぶ男から目線を下げ、褌だけの男の身体を描くアイヌの女の子を見る。
綺麗な青い目。
どこか見覚えのあるマタンプシ(アイヌの鉢巻き)を見下ろしていたその時、金属の爆ぜる音が聴こえ、刀袋を振り抜き、銃弾を弾く。
「銃弾を斬った!?」
「ううん、違う。今のは弾いただけ」
─────だけど。
今の狙撃は確実に褌だけの男を狙っていた。小柄を抜いて、逃げようと暴れる褌男の手足を縛る縄を斬り、兵隊の男と由竹を見て、アイヌの女の子を見る。
なんで、みんな動かないの?
「さっさと来る前に走る!」
「「「は、はいっ!」」」
「お前は良いメノコだな!」
メノコ?と小首を傾げながら兵隊の男にアイヌの女の子を抱っこさせ、着替えに手間取っている褌男を担いで私も雪山の奥へと走り出す。
「ばっ!?下ろせ!!」
「ん、走るときに喋ると舌を噛むよ」
ガチャンと金属の音が聴こえて、身体をひねって真横に跳ねると私の走っていた場所に銃弾が命中し、私も標的になったことを理解する。
ん、ムカつく。
あとで銃を斬ってお仕置きする。
「ちくしょう。今日は厄日だ!」
「泣かないで」
「泣いてねえよ!ちくしょう!」
ん、この人もすごくうるさい。
5分、6分と走り続ける。
「アシリパさん、生け捕りにしよう。お前らをつけて来たかも知れねえんだ。手伝えよ?」
ギロリと睨む兵隊の男に由竹は「ただの案内の筈だったんですけどぉ!あ、そうだ。ソイツ捨てようぜ!」と悲鳴を上げ、私の担ぐ男も「てめえ、白石ぃ!?」と怒鳴り返した。
「由竹、知り合いなの?」
「え?あっ、いやぁ」
「ソイツも囚人だ!!」
「三つ目かッ」
「クゥーン」
「ん、臭いから寄らないで」
私の言葉に由竹はしょんぼりとする。
お風呂、ちゃんと入ろう?