「糸色、あのウスラハゲがスチェンカと言っていたな。どうやる?」
「ん、殴り合いだよ。ただし、足は使っちゃダメな格闘技。間合いは、ここぐらいかな?」
今夜のスチェンカに向けて準備する鯉登達に問われ、紗那に構えてもらった前に立つ。間合いは、ほぼ至近距離に近く殴り合えば絶対に当たる場所だ。
「音之進様、空手の突き上げも有効ですわ。この様に間合いを詰めてしまえば必然的にお互いの攻撃手段は鉤突きになります。防御し、顎を打つ!」
私の左鉤突きを右腕で受け止め、左突き上げを放つ紗那の姿に感心する鯉登。杉元や谷垣は体格的に大きいから鉤突きの連打で倒せる。
「……何故、華族の女性が殴り合いに詳しいのか誰も疑問に思わないのか?」
月島の呟きに、みんなの視線は集まる。
「紗那は私を奮い立たせるために強くなってくれた女性だ。月島、彼女は淑やかな女性なのだ」
「しとりは剣道の延長だな。糸色流柔術の免許皆伝でもある」
「ん、鍛えてるだけ」
「私は音之進様のためですわ♪︎」
自分の顔を押さえて、いやんいやんと照れる紗那に小首を傾げつつ、私は拳に包帯を巻き付けるのに失敗している谷垣の前に座り、丁寧に巻き付けてあげる。
「すまない、しとり」
「ん、谷垣は大きいから仕方ないね」
父様と同じぐらいかな?
「ヌッ、うーふッ」
「?」
私の事を見ていた谷垣は胸毛を千切られ、変な声を上げて痛みに耐えている。やっぱり、胸の毛って抜かれると痛いのだろうか?
「スチェンカ。俺達で勝つぞ」
「ああ、日露戦争を思い出させてやる」
男の人って喧嘩大好きだよね。
「音之進様、がんばってー!」
「けんちゃんは出れなくて残念だね」
「残念じゃねえよ」
でも、悔しそうではあるよ?
そんなことを話しながら、一緒にスチェンカの会場ではなくワンちゃんを盗んだ人を探しに向かう。チカパシとエノノカも一緒に探してくれるらしい。
紗那は鯉登の応援だってさ。
「ん、剣路と私は人探し」
「チカパシとエノノカは犬を探してくれるか?」
「任せて!ニムラニシパ!」
「……緋村だ」
クスクスと笑いながら剣路を見る。
「シトゥリも気をつけてね!」
「エノノカもね」
そう言って離れるけど。
私と剣路の目的は敵を見つけることじゃない。この村に隠れている囚人を先に見つけて、キロランケ達の情報を聞き出すことだ。
そうしないと真っ先に杉元は囚人を襲うだろうし、危なくなったときに助けることが出来ない。そうなったら、とても危ないし、危険だからだ。
みんなを大事に思うのは仕方ないね。