「ん、怪我人を連れてきた」
「野間一等卒!?」
慌ただしく私の背負っていた「のま」と呼ばれる男を受け取る兵隊達の顔を見比べ、この中に剣路は居ないのかとガッカリしていたとき、視線を感じ、駐屯地の建物の二階を見上げると剣路が目を見開き、私を見つめていた。
「やっと会えたね、剣路」
ただ、どこか慌てているようにも見える。
「失礼。お嬢さんが野間一等卒を助けて貰ってくれたとのことですが」
「ん、私だけじゃない……あれ?」
ススハムがいないことに気付き、キョロキョロと辺りを見回すもススハムは居らず、私を置いて雪山に逃げた事に気付いて、ムッとしてしまう。
ズルい。
「その血塗れの背中では何です。男臭いかも知れませんが、着替えを用意しますので、駐屯所の中に来て頂いても宜しいか?」
そう言うと兵隊の一人が私の肩に触れた瞬間、木刀がその腕を殴り落とし、五年ぶりに会えた剣路の腕の中に私は包まれていた。
「ギッ…緋村、乱心したか貴様!?」
「人の女房に気安く触んじゃねえ!」
「ん。初めまして、緋村しとりです」
ゆっくりとお辞儀するように見せ掛け、剣路の方に目配せすると「なんで来たんだ」と言いたげな視線に少しカチンと来る。私に「戦争が終わったら直ぐに帰る」って言った癖に五年も帰って来なかった剣路の方が悪い。
「何を騒いでいる」
「鶴見中尉!緋村一等卒の妻を名乗る女性が負傷した野間一等卒を背負ってきたため、その当時の話を聞こうとした際、緋村一等卒が突如暴行を働き」
「違う。ソイツが私の身体に触ったから剣路は怒っただけ、いきなりレディの身体に触るのは不躾で良くないから治したほうがいい」
そう言った瞬間、ぐりゅんっと真っ黒な目をした「つるみ」と呼ばれた額当ての男の顔に変な液体が垂れ始め、ビクンと身体を跳ねさせながら剣路の後ろに移動する。
何か変なものが取り憑いている。
「失礼。前頭葉が欠けていましてね。緋村、自分の妻に手を触れた男に怒るのは分かるが同じ第七師団の仲間だ。あとで謝罪するように、それから君の奥方は湯浴みをさせてあげたまえ。女人の身で、それだけ血を浴びているのは苦しいはずだ。着替えと風呂を用意しろ!」
「「「はっ!」」」
つるみの言葉に従って離れていく兵隊達の後ろ姿を見ながら、剣路の方に視線を戻す。
「なんで来たんだ。よりによって鶴見がいるときに」
「ん、剣路が帰ってこないのが悪い。けど、守ってくれて、ありがとう」
もう少しでボコボコにするところだった。
「親父さんはまだ元気か?」
「今は白也と一緒に交易場にいる。多分、ロシアから流れてきたアレの回収だと思う」
「……そうか」
すごく嫌いなことばっかり起こっている。