「写真?杉元、目的を忘れたか」
「ああ、ロシア兵に連れていかれたらしい。町か村に着いたら聞き込みするぐらい構わないだろ?」
「月島、落ち着け。杉元も熱くなるな。全く鶴見中尉の命令を遂行せねばならん私の気持ちを考えろ。紗那、手鏡を貸してくれ」
「はい、どうぞですわ♪︎」
素早く小袋に仕舞っていた指紋も曇りもない手鏡を取り出した紗那の手鏡を受け取り、髪型を整える鯉登の横顔を紗那はうっとりと見つめている。
とてもかわいいけど。何か違う。
「派手な鏡だな」
「ん、私もあるよ」
カバンを開けて、大きな鏡を取り出す。
「「「う、美しい…!」」」
「ん、間違えた。これ嘘つき鏡だった」
自分の顔に見とれる鯉登と杉元と谷垣の三人を無視して、しっかりと鏡をカバンの中に戻すと肩を掴まれ、思わず、そのまま投げ飛ばしてしまった。
ん、気を付けてね。
危ないものは危ない。
「待て!今の私は誰だ!?」
「ああっ、私の手鏡が…!」
べしんと雪に叩き落とされた手鏡を拾った紗那は悲しそうに手鏡の傷を確かめ、ハッと自分のしてしまったことを慌てて謝る鯉登の姿に月島は溜め息を吐く。
ん、そうなるのも仕方ない。
「大丈夫、紗那」
「えぇ、息子がくれたプレゼントですもの。大事に使っていきたいんです」
そう言って笑う紗那に土下座し始める鯉登に呆れつつ、私は犬橇に座っている剣路の後ろに座って、さっさと行こうと告げる。
「しとりも手鏡いるか?」
「ん、私は可愛いから要らないよ」
「まあ、確かに」
「ん、可愛い奥さんだよ」
にっこりと微笑んであげるとけんちゃんは顔を真っ赤に染めて、橇を引っ張るワンちゃんに「トホトホ!」と叫び、勝手に走らせる。
ん、やっぱり照れてるね。
「っと、悪い。赤ん坊がいるんだよな」
「まだ平気だよ?」
ワンちゃんの走りを緩めた剣路はそう言いながら、明らかに定員の越えた鯉登達の犬橇に視線を向け、すごく偉そうに怒っている鯉登に半笑いを向けた。
「けんちゃん」
「ん?」
ぎゅうっとけんちゃんの背中に抱き付く、左手で右手首を掴んでいるから落ちたりすることは、たぶん、ないかな?と思いながら肩口に顔を近付ける。
「けんちゃん、大好きだよ」
「ごっ、ふっ!ごほっ!?」
「ん、汚ない。ばっちい」
スンとくっ付けていた身体を離して、剣路の事を見つめると「悪ふざけでも場合を考えてくれ」と怒られた。ん、ウソは言ってないよ。
「しとり、次ふざけたら五人目だからな」
「ん、毎年はキツいかも」
「……たまに思うけど。すげえよな、おまえ」
そう?