アシリパと由竹の二人を保護し、鶴見にアシリパを引き渡すという鯉登の言葉に困惑する。なんで、あんな悪い人に渡すの?
「尾形の目を狙った、この小柄は誰の物だ」
「ん、私の趣味ではない」
「音之進様、私は薬丸自顕流ですわ」
そう言うと紗那は背負っていた刀袋を掴み、私も電光丸を差し出して小柄の有無を示す。私の電光丸にはしっかりと小柄は残っている。
刀を抜くときに投げたりも出来るけど。
絶対に投げないし、使わない。
私の小柄は剣路のお髭を切るときに使う。
いや、剃るだっけ?と小首を傾げつつ、刀を腰帯に差して未だに目覚める気配の無いオガタを見る。出血は止まっているけど、熱が引かない。
毒は塗ってなかったけど。
魘されているのは事実だ。
「全く勇作殿が見たら嘆くぞ」
「なんで花沢勇作の名前が出るんだよ」
「杉元、前に話しただろう。コイツは勇作殿の腹違いの兄だとな」
「ん、剣路聞いてた?」
「いや、オレは基本的に橇を操縦してただけだ」
確かに、ワンちゃんを動かしていた。
「クゥーン」
エノノカとチカパシ、アシリパの三人にチョコレートをあげ、此方を見つめる由竹にチョコレートを渡してあげる。
「やったー!」
ドタバタと橇の近くを走る由竹。
「しかし、暗くなる前に移動しなければ野宿になるぞ。オガタを生きたまま鶴見中尉に引き渡して褒めていただかなければ!」
「音之進様は偉くて格好良いですわ♪︎」
「うむ!」
紗那に褒められて喜ぶ鯉登。
そんな二人を見ているとき、何か騒ぐ声が聴こえてきて氷の岩の裏側を覗くと舞治が楽しそうに殴られ、殴り返して楽しんでいるのが見えた。
「おや?しとりさんではないですか」
「ん、舞治良いところにいた」
「良いところに?」
状況を説明して月島の事を担いで貰う。
よいしょっと軽々と月島を持ち上げる舞治に感心し、スヴェトラーナも呼び、休める場所を探して移動することになった。
都会に行ってみたいというスヴェトラーナの気持ちは分からなくはないけど。
「両親には手紙か写真を送ろうよ。大事な時に間に合わなかったら悲しいよ?」
そう言うと悲しそうに泣き出してしまった。
ん、どうしよう?と困りながらも受け止めて背中を優しく擦って落ち着かせる。一応、移動は出来るけど。オガタはいつ死んでもおかしくない。
「ヘンケ、近くの村までだ」
「ヘンケ!」
その言葉を合図に犬橇は走り出す。
「けんちゃん、家に帰れる?」
「……いや、もう少しだけ掛かるぞ」
そう、だよね。
早く母様のお墓参りがしたいのにな。