「ん、じゃあ、私達は先に戻るね」
「杉元、アシリパを泣かせるなよ?」
「ああ、分かってる」
ロシア領を抜けて、日本を目指す。
そろそろ私の体調が心配だからと剣路が、みんなに私が妊娠していることを伝えてくれた。ん、アシリパは先に聞いていたから自慢気だったけど。
「由竹、これ渡しておく」
「ぼくぅ?」
「ん、アシリパを守ったお礼だね」
そう言って3万円を渡すと白目を剥いて倒れた。
「なんで?」
「一般人はそんなものですわ」
不思議に思いながらも私は剣路の腰に掴まり、移動する犬橇に乗ったまま手を振る。剣路は「色々と楽しかったな」と言ってくれた。
「母様もこんなことしてたのかな」
「やってそうだよなあ」
母様と父様の二人はこうして、いつも色んなところで戦っていたのかと思うと嬉しくなる。私の知っている母様は淑やかで私達の事を愛してくれる素敵な女性だ。
悪いことをしたら叱ろうとしてくれるけど。
私達の事を心配する方が上回ることが多くて、いつも顔や怪我したところを心配そうに見つめて、よしよしと頭を撫でてくれることが多かった。
「オガタ、大丈夫かな」
「死なないだろ。あの男だ」
「......あの小柄、投げたのって紗那だよね」
「十中八九そうだろう。あんな正確に投擲出来るのは紗那かお前ぐらいだ。まあ、今も雪に紛れて此方を見てる忍者かも知れねえがな」
トホトホと叫ぶ剣路の言葉に頷く。
だけど、みんなは危ないときに陰ながら戦ってくれるだけで危ないことはしてないよ。ちょっとだけ、変な感じになっていたりするけど。
それは違うと思う。
「どうしたの?」
「......馬が乗り捨ててある」
「馬じゃなくて麝香鹿だよ、あれ」
「麝香……中国の奴らか?」
「ん、あれはハッピーが悪い」
そう剣路と話しながら進んでいるとイヤな気配がした。ヒグマがいっぱい居るのが見えた。ヒグマも群れで狩りをするんだね。
「けんちゃん、ヒグマいっぱいいるよ」
「流石に囲まれたら不味いぞ」
「勝てると思うけどなあ」
左手だけの剣術を極めるのは難しいけど。何度か試していけば使えるようになると私は、思っているし。そのために練習は必要になる。
自分の理想像を追いかけて、身体を重ねる。
そうすると私はもっと強くなる。それなのに、居合を使えなくなったのは痛手だ。飛天御剣流の奥義は居合だと聞いていたけど。
もう私には使えない。
それだけがすごく残念だけど。
いつかけんちゃんが使えるようになったとき、私に使って倒してほしいかな。まあ、けんちゃんは弱いから無理だろうけど。