豊原の旅館。
「髪を切ったら景にそっくりだな」
「ん、切らないよ?」
私の髪の毛を櫛で梳かす父様の言葉に答えを返す。母様の作ってくれたリボンを着けていたいから、髪を切るのは絶対にイヤだ。
「しとりも四人目、ひとえも対抗してきそうか?」
「ん、ひーちゃんは三人目だよ」
「……孫が七人か」
「ん、七人の孫」
そう言うと父様は何かを考え込んでいる。
よしよしと頭を撫でてあげると母様の眼鏡を私に掛けてきた。ん、ひとえのは一番変わった力を持っているけど、父様の持っている眼鏡はずっと使っていたもの。
そんなものを簡単に掛けるのはダメだよ。
「景にそっくりだよ、お前達は」
「ん、私は美人なマダム!」
「これでもう景と同い年か…」
「?」
何か感慨深そうに呟く父様。
また、私に母様の面影を感じているのかな?と思いながら、お風呂が長すぎる剣路が気になる。どこかで遊んでいるのかな。
そういうことなら私も誘ってほしい。
「父様、けんちゃんとお風呂だったよね」
「ん、ああ、そうだな」
「けんちゃんは?」
「逆上せてるんじゃないか?」
「......父様、イタズラしたの?」
ちょっと怪しむように、そう聞けば「そういう顔もそっくりだな」と頭を撫でてくる。むう、私はマダムなのにまだ子供扱いするつもりなの?
「このクソジジイが!」
「チッ。もう起きたのか」
「ん、おかえり。けんちゃん」
「ああ…いや、そうじゃねえ。しとり、そのクソジジイから離れろ」
「クソジジイじゃなくて、父様だよ」
そう言って剣路の事を抱き締めるように受け止め、落ち着かせると父様が「しとりは父ちゃんと一緒にいような」と笑ってきた。
ん、家族は仲良くだよ。
あんまり喧嘩してたら怒るよ?
「しとり、どうする?」
「ん、父様は寂しがり屋さん」
「それは知ってる」
「ん、じゃあ、仲良くしてね」
私の言葉に二人ともイヤそうにしている。父様は母様と祝言を挙げるときに両家に話さず、勝手に進めてたの知ってるからね?と言えば黙った。
秘密を握るのは、大事だと思う。
「ところで、けんちゃん」
「なんだ?」
「なんで逆上せてたの?」
「そこのクソジジイに頭をブッ叩かれて気絶してたんだよ。クソ、まだ頭が痛い」
父様の悪いところだよ。
怒ったら直ぐに殴るのはダメだって母様に言われてたのに、また約束を破ったの?と聞けば「いや、約束は破ってない。アレはデコピンだ」と教えてくれた。
「あんなのがデコピンなわけねえ!」
「けんちゃん、父様のデコピンは刀をへし折るくらいすごちんだよ?」
「暴利じゃねえか!?」