剣路の助けた男は、自分の事を平太と名乗ったのに、コロコロと口調が変わって女の人やお爺さん、ぶっきらぼうな男にも変わる。
狐憑きや狗神憑きでもなく、二重身体ではない。記憶の混濁と人格形成に支障を来す程の恐怖を体験し、その出来事を何度も繰り返している?
「平太師匠、ここですか?!」
「もうちょっと左ですね」
由竹は燦々と輝く目を平太に向け、杉元と一緒にハクという砂白金を採っている、私は基本的に墨か黒炭の筆を使っているから万年筆は少し使いにくい。
けど、父様は母様の万年筆を大事に使っている。
砂白金。
「しとり、今日は魚が食べたい!」
「ん、じゃあ、釣ろうか」
カバンを開けて、釣竿を出す。
その間に全員分の飯盒を用意し、お米を綺麗な水で洗い、磨ぎ汁はお米の風味を残しているからお味噌汁の出汁の繋ぎに使う。
お味噌は杉元の買ったものを少し貰い、焚き火の上に飯盒を並べていく。その近くにもう一つ焚き火を用意し、石を並べて釜戸の代わりを作り、その上にお米の磨ぎ汁と昆布、かつお節の出汁を混ぜたものを入れたお鍋を置いて、煮え立つ前に具材を投下する。
今回は小松菜とニンジン、ジャガイモを一口大に切って温める。春雨を入れて、蓋をする。お玉で掬ったお味噌をゆっくりと溶かす。
「しとり、手の付いた竿で取れたぞ!」
「ん、鮎だね」
ちょっと小振りなのばかりだけど。
大きな鮎は腸を取って身を洗い、串に刺して塩を振りかけて、焚き火の傍に突き立てて、焼いていく。小さな鮎は取り除いていた腸と一緒に骨ごと擂り砕いて、丸く形成してお鍋の中に入れて、煮立つのを待つ。
鮎のつみれ汁と、玄米と白米と雑穀米の混ぜご飯もしっかりと沸騰して泡を吹いている。ワクワクするアシリパは「鮎のチタタプ、楽しみだ!」と笑ってくれる。
ん、チタタプじゃないけど。
楽しんで貰えるなら私も嬉しい。
「ん、出来上がった」
「杉元!ご飯が出来たぞ!」
嬉しそうに笑ったアシリパに呼ばれて、みんなが集まってくる。私はみんなに鮎のつみれ汁を装い、飯盒をみんなの前に置いていく。
「肉のつみれ汁?」
「なんだ?この紐みたいなの」
「春雨だろ。精進料理出てたぜ」
「わあ、美味しそうですね」
「ん、いただきます」
「「「「「いただきます」」」」」
冷えた身体を温めるには、お吸い物が一番。野菜と魚、お米も合わさってすごく美味しい。
「焼き鮎も出来たね」
「でけえのくれ!」
「あっ、てめえ白石!?」
スパァンと杉元に顔を叩かれる由竹を眺めつつ、小振りな焼き鮎を取ってお米に乗せる。ん、塩味がほどよくて苦味もすごく美味しい。
「ヒンナヒンナ」
「ヒンナ?なんです、それ」
「アイヌの食事に感謝する言葉だよ、平太師匠」
まだ、師匠呼びなんだね。