みんなを斬り殺そうとする剣路のうなじを手刀で叩き、意識を刈り取って鞄の取っ手を握る。
コイツ、
剣路が無差別に暴れたことを口実に、糸色家か父様の会社に資金援助するように呼び掛けるつもりだった。そうなったら、母様が断り続けていた陸軍への兵器提供も糸色家に話を通しやすくなる。
一番の狙いは、
「もう行ってしまうのかね」
「ん、剣路の部屋に居る」
そう言いながら私の事を睨む双子と男を無視し、剣路の匂いを辿って部屋を探す。私の事を殺すことも厭わず、私を取り囲もうとしていた。
アレは嫌いな種類の人間だ。
よく母様の力を狙っていた人間を見ていたから、そういうことを考えている相手の見分け方は知っているし、個魔もいつでも戦えるようにしている。
「……ぐっ、またやりやがったな」
「剣路は油断しすぎ。死んじゃうよ?」
「オレがお前以外に負けるかよ」
「もっと強くなってね。私は強い人が好きだから」
クスリと笑って、剣路を廊下に下ろす。
視線を感じて、部屋の中を見る。
確か剣路に「おがた」と呼ばれていた男が、胡乱な目を私に向けている。何かを求めるように、私と剣路の事を見つめている。
この駐屯所は変なのしかいないの?と剣路に聞けば「戦争帰りなんてそんなもんだ。みんな、どっか可笑しくなってる」と呟いた。
「剣路は変わらないよ。直ぐに怒るし、困ったことがあると眉毛が下がる。私と居るときはいつも少し前を歩いて、守ろうとしてくれる」
「……うるせぇ」
不貞腐れる剣路の頭を背伸びして優しく撫でてあげる。剣路は私より背が高いのに、まだまだ子供っぽさが抜けないね。もう三児のお父さんなのにね。
「剣路は弱くても良いよ?」
「は?オレは強いだろ」
「私に勝てないのに?」
「お前だってオレにかごぉっ!?」
「ん、不埒なのはいけない」
鳩尾に拳搥を打って襟首を掴み、ズルズルと引きずって剣路の匂いが一番強い部屋の扉を開けると小ぢんまりした洋室が広がっていた。
逆刃刀はあるけど。
抜いた形跡もないし、血脂の曇りもない。
代わりに、置かれた柄紐の荒れた血生臭い「へ」の字に曲がった独特の柄をした刀*1が置かれている。妖気を纏っている……違う。
これは、人の嘆きや憎しみだ。
怨念とも言える人の魂を吸いすぎて、刀が妖刀に成りかけている。ほしい、けど。剣路の刀だから、勝手に取ったりしたら怒られる。
「ん!剣路、今日はもう寝よう」
「ゴホッ、鳩尾殴りやがったあとにか?!」
「だめ?」
私の事を見下ろす形になりながら凄んできた剣路を見上げると悔しそうに顔を歪めて、へにゃりとお義父様にそっくりな「おろぉ~顔」になる。
そういう顔も好きだよ。
「ん、一緒に寝よ?」
「んぐッ、お前なァ…!こっちは五年も我慢してたんだぞ?それなのに無防備に抱きついてきたり、可愛い顔で見上げてきたり、マジでいい加減にしろよッ……!!絶対に離さねえぞ!」
「ん、でも剣路はお風呂が先?」