よしよしと絃をあやしてあげながら、けんちゃんの帰りを病室で待っているとイヤな気配がドアの前にやって来るのを感じた。
けど、部屋には入ってこない。コツコツと靴底を鳴らす音が聞こえてきた。電光丸は壁に立て掛けてあり、ゆっくりと手を伸ばして左手で柄を握る。
「うだあ」
「ん、しーっ、だよ」
「うぱあ!」
「ん、かわいいね」
そう言って赤ちゃんのおでこにチューしてあげた瞬間、窓を突き破ったり、ドアを叩き壊して部屋の中に入り込んできた──りせず、彼は目の前にいた。
「ホウ。随分と成長したみたいだな。糸色」
「? だれ?」
包帯でグルグル巻きの男に小首を傾げる。
「だれ?」
もう一度、問いかける。
「志々雄真実だ。野暮用で少し来ただけだ」
「無限刃!」
その名前に反応するように右手に収まっていた無限刃が飛び出して、彼の腕の中に飛び込む。けど、ししおまこと?ん、志々雄真実は腰には佩いていない。
「志々雄真実、父様の敵だった人?」
「確かに戦ったがそれだけだ。お前の父親をブッ殺してやろうと思ったことは一度もねえよ」
そうなんだ。なら、いいかな。
「ん、あんまり危ないことしちゃだめだよ」
「...で、その赤ん坊か」
「絃だよ、糸に玄と書く」
志々雄真実に赤ちゃんを見せると「この青い目、アイツによく似ているな」と彼は呟いて、私はきっと母様の事だと思い、笑って頷く。
こういうこともある。
「志々雄は何しに来たの?」
「俺の技を継ぐヤツを見に来ただけだが、お前の母親に頼まれたのもある」
母様、まさか地獄にいると?と戸惑いつつ、私は消えてしまった志々雄真実に目を向ける。すごく強力な気配を感じたけど。
気のせいだった、のかな。
まあ、そういうときもある。
「なんだったんだろうね」
「だあう」
「んた、だあーう」
ちゃんと生きているなら大丈夫だけど。赤ちゃんを抱っこせずに還ったのはすごく不満だ。でも、部屋の前にいたイヤな気配が消えてしまった。
きっと、志々雄真実が何とかしてくれたんだろうと思えば安心できる。父様と母様に悪いことした人なのは知っているけど。そういうことも出来るんだね。
「うー」
「ん、うー」
「あぶば」
「あぶ?」
絃の言葉を聞きながら、よしよしと頭を撫でていると窓の外は騒がしくなってきた。よく見たら牛山が誰かを追いかけているのも見える。
あれが、次の刺青のヤツかな?と小首を傾げるも、あまり信用できる相手じゃない。色々な幽霊が取り憑いていて、ああいうのは関わっちゃダメだ。