札幌の地形がホワイト・チャペルに似ていると話す石川啄木の言葉に私は納得した。けど、ジャック・ザ・リッパーには程遠く感じる。
「しとり、お前はイギリスに行った事があったろう。ちょうどジャック某の殺人鬼がいた時期に」
「えっ!?」
「ん、みんな驚きすぎ。ジャックには会ったことあるけど、こんな変態じゃなかったよ。変な感じですごく濁った臭いのする死体だったから」
「……待て、死体?どういうことだ」
「? リッパー・ホッパーはフランケンシュタインだよ。死体を継ぎ接ぎ、作った生きる死体。父様や色んな人が倒したけど。イヤな臭いだったから覚えているだけだけどね」
私の言葉に困惑するみんなに小首を傾げる。山県のおじ様に話すのは禁止だと言われていたことを思い出したけど、もう十年以上も前の話だ。
ヒューリーが、みんな壊しているはずだね。
「......しとりさんが、世界の裏側を知っているのは分かったけど。その模倣犯が札幌で暴れていることに変わりはない。刺青囚人なら尚のこと捕まえないといけない」
「嗚呼、娼婦は観音様だからな」
「ピュウッ!流石、牛山だぜ」
そう言って由竹は牛山の事を褒める。
ん、女の人を大事にするのはとても良いことだと思う。そう思いながら伝えようと思っていたことを思い出して、牛山の事を見上げる。
「牛山、赤ちゃん産まれたって」
「おう。見てるぜ、しとり」
「ううん、私じゃないよ。あの時のアイヌのお姉さん達、みんな懐妊して産んだって聞いてるよ。大家族の大黒柱になったね」
私の言葉に牛山は固まり、ブヒィッ!と鳴いた。
「しとり、ちょっと来い」
「けんちゃん、どうしたの?」
私の事を呼ぶ剣路に小首を傾け、ゆっくりと剣路の後ろを着いていくと、いきなり抱き締められ、大好きな人の匂いが鼻を擽る。
……ちょっとだけ、不安を感じている?
「あんまり無茶しないでくれ」
「無茶してないよ?」
もっとも無茶するのはこれからだ。のっぺらぼう、ウイルクを使って、鶴見達はアシリパの事を呼び出そうとする。────下手に動けば、ウイルクを見殺しにする可能性だってある。
すごく面倒だと思う。
人の死は嫌いだ。空を見上げると、私の事を雲の上から観察しているドクトル・バタフライが見える。そんなに高いところから見なくても良いのにね。
「(けんちゃんも身体に気を付けて、もうすぐ金塊を巡る旅は終わりを向かえる。その時、私は刀を振るえるほど万全だったら良いんだけど)」
ゆっくりと自分の右手を見つめる。
握力はもうこれ以上戻らない。