病院のベッドで眠っていると煤ける臭いと騒がしい声が聴こえ、目を開けて窓の外を見ると遠くの建物が燃えているのが見えた。
「(ビール工場の場所、今日だったんだ)」
この前の話し合いから二週間が経った頃の夜に起こった出来事を考えながら、刀を握る。けど、直ぐに手を離して、赤ちゃんの眠る籠を見つめる。
あそこには剣路がいる。
きっと杉元達を助けてくれると信じているし、絶対に負けないと信じている。私の事を好きだと諦めずに突き進んでくれた人が負けるわけがない。
「随分としおらしく待っているじゃないか」
手近に置いていた花瓶を放り投げて、部屋に入ってきた男を攻撃しようかと思ったけれど。向こうは銃も剣も何も身につけていなかった。
────仄かに、優しい匂いがした。
「......夜分遅くに何の用。鶴見」
「何、ちょっとした世間話をしようと思ってね。糸色しとり君、この金塊を巡る争奪戦に於いて、君だけが参戦する理由が不透明で実に不思議でならない」
ドロリと変な汁を出す鶴見の言葉を聞き終え、私は彼の言葉に返す答えを考える。確かに、私がこの金塊を巡る争奪戦に入ったのは母様のお友達に会うため、母様のやり残した地獄門の状態の維持には無関係────。
「最初は母様のお友達の二瓶をこんなことに巻き込んだのっぺらぼうを、アシリパの父親のウイルクを殴り倒すためだった。────だけど、今、私が此処にいるのは新しく出来た素敵なお友達を助けるためだと思う」
「金塊に興味はないと言うんだね」
「無い。あんな死に神の憑いた金塊なんて手にしたら大変な事になるだろうし、私は家族とお友達を連れて東京に帰ってお墓参りして欲しいだけだから」
そう、ハッキリと伝える。
「母親のお墓参りのため、と?」
「ん、私は金塊なんて興味ないし。好きに取り合えば良いとも思っている。だけど、私の赤ちゃんを見たとき、鶴見は何に重ねたの?」
「......何も重ねてはいないよ。ただ、私に子供がいたのなら君のように素敵な女の子になって、ひょっとしたら君のように母親になっていたのかもと思っただけだよ」
本当の事を言っている。
「金色の髪をした女の人と綺麗な女の子なら、ずっと鶴見の傍にいるよ。見えなくても、ちゃんと傍に寄り添ってくれている」
私が、そう伝えると僅かに目の色が変わった。
けど、すぐに目を閉じた。
「ならば、もう迷う意味はない。私は私の目指す場所に向かって歩むだけだ。糸色君、君のおかげで迷いは晴れた。ありがとう」