火災より少し時間は遡ります。
黒幕の門倉さんです。
一方その頃、札幌ビール工場付近────。
わざと腰を曲げ、小柄な女性を演じる姿をキラウシと牛山辰馬は感心しながら、いつでも合図を送るタイミングを見計らっていたその時、彼の近くに人影が見える。
───宇佐美時重。
鶴見中尉に狂愛を捧げる上等兵が、千切れた地図を片手に歩いてきた。
「こんばんは、少し良いですか?」
「(いいわけねえだろッ!?)」
マッチの火を片手に話し掛ける宇佐美に門倉は顔を隠しつつ、逃げようと駆け出すも女装に慣れておらず、地面に眠るように倒れ込む。
───
「ッと、何するんだこの女ッー!?……え、門倉看守部長!なんと中央に見捨てられたのですね、お労しい男娼に身を窶していたなんて!!ウハァーッ!!」
狂喜燦々の笑顔を向け、手を差し出す宇佐美の手を門倉は慌てて払いのけ、偶然にも歩兵銃の負い紐を弾き、歩兵銃を遠くに追いやった。
「きゃああぁあぁぁっ!!?」
「えっ、いきなり、ああ、土方歳三と結託していたんですから近くに味方がラアッ!」
「ホウ」
振り向き様に拳を振り抜く宇佐美の右こぶしを受け、感心する牛山は片袖と襟首を掴み、取っ組み、地面を踏み締めると宇佐美を真横に投げる。
「キラウシぃ!」
花火の炸裂する音と闇夜を照らす光の最中、門倉は走り出した。牛山とキラウシも同時に走り出し、門倉とは別方向に逃げる。
「待ってくださいよ、門倉看守部長~!」
「(なんで俺を追うんだよ!?)」
慌ててビール工場に逃げ込む門倉を追い、宇佐美もビール工場の中へと入っていった刹那、門倉の脱ぎ捨てた着物が足に絡まり、地面に倒れ、額をドアノブにぶつけ、肉が裂けて出血する。
「えひぁ!!」
鈍い音に門倉は驚くも階段を駆け上がる。
が、すぐにバテて嗚咽する。
「や、痩せるべきだな、うん」
「ようやく追い付きましたよ、門倉看守部長」
「う、宇佐美!クソ、あれでも気絶しないのか!」
その言葉に、宇佐美は「やはり全て計算して罠を仕掛けているのか」と警戒心を高めた瞬間、ずるりと階段を駆け上がっていた門倉が転び、宇佐美の顔面にお尻を叩きつけるように落下した。
ゴヅッンッ……!
「に、逃げよ」
またしても宇佐美は門倉の策略に嵌まり、鶴見中尉とは離れた場所で意識を失っていた。