病院の病室を抜け出して、私は荷車を引く馬に乗った剣路の姿にホッと安堵の吐息を吐き出して、毛布や布団を敷き詰めて、赤ちゃんが怪我しないようにしてくれている荷車に靴を脱いで乗り込む。
「剣路、状況は?」
「アシリパがのっぺらぼうを理由に捕まった。杉元達が追っている間にオレはお前と絃を札幌の外まで送っていく」
「……逃げろってこと?」
ムッと顔をしかめると「万全じゃないお前が居たって邪魔になるだけだ。小樽でひとえと子供を守っててくれ」と剣路に言われた。
こっちを見ずに一方的な言葉だと不満に思いつつ、私や赤ちゃんの事を考えて、しっかりと言葉にしてくれているのは分かるけど。
すごくイヤな気持ちになる。
「……刀、貸してあげる」
「オレに妖刀は使えないだろ」
「違う。貴方のお父さんの愛刀」
そう言って鍔や柄頭も鋭利に研いで刀身と化した峰も刃筋になっている刀を差し出す。僅かに目を見開いて、振り返った剣路は馬を止め、私を見下ろす。
「人斬り抜刀斎の愛刀、全刃刀」
「......どこで手に入れた?」
「姿伯父様の趣味は刀剣収集だよ。自然と売られたり捨てられたりした刀は集まってくる。だから、これはけんちゃんが持つべき刀だと思う」
鐺の近くを持って差し出した全刃刀を受け取った剣路はゆっくりと柄を握り、全刃刀を引き抜いて、その刀身を月明かりに照らした。
「綺麗な刀だな……けど、人を斬った刀だ。オレの使っていた刀の方がより多くの命を吸っていたが、コイツは人斬りのためだけに存在しているのが分かる」
そう言うと剣路は鞘を腰に佩いて、全刃刀を鞘に納めるとまた馬を走らせる。
「だあ」
「ん、起きちゃった?ごめんね」
よしよしと寝ていたのを起こしたから、泣きそうになっている赤ちゃんの背中を優しく撫でて、トントンと優しく擦ってあげる。
いいこだね、いいこだね。
私の可愛い赤ちゃん。絶対にあなたのお父さんは死なないから大丈夫だからね。バカだし、弱いけど。私との約束は絶対に守ってくれる。
「しとり、小樽に着いたら待ってろよ」
「待っていたいけど。多分、黄金剣の紗那が出てきたら剣路でも勝てない。あの聖剣に勝てるのは私の聖剣だけだから」
スヤスヤとまた眠り始めた絃を抱っこしたまま、そう伝えると「それなら、上回って勝つだけだ」と、けんちゃんは笑った。
いつもそうだね。
「フフ、安心して待ってるね。けど、人が出来るだけ死なないようにしてあげたい」
アシリパに、これ以上背負わせない。