「くかぁ……」
「まだ寝てる……」
第七師団の駐屯所に一泊し、個魔の影の中に隠していた新しい鞄を取り出して、剣路の着替えと姿を見えなくする母様の発明品「石ころ帽子」を被り、窓の格子を斬って窓の枠に手を掛け、屋根に振り子のように跳ね上がる。
瓦の上を歩いて、反対側の窓を覗く。
「(ん、やっぱり部屋の外に集まってる)」
歩兵銃や拳銃を構えた兵隊達の顔は不埒だ。
剣路の事を気絶させて私に何かしようとしているんだろうけど。剣路が刀でつっかえ棒をしているから、部屋には入れない。
「(みんな、殺気立ってる。あと臭い)」
お風呂に入っていないのかと鼻を摘まみつつ、開いていた窓に滑り込み、石ころ帽子を被ったまま廊下を歩いていると血まみれの杉元がいた。
昨日の双子も一緒にいるけど、ボロボロだ。
気付かれないように手を縛る縄に切れ込みを入れ、いつでも逃げられるようにしておく。他の人からすると縄を千切ったように見える。
「…花の香り?」
「ん、すごい嗅覚」
杉元の鼻の良さに感心しながら廊下に戻り、移動しようとした瞬間、両頬に黒子のある男の拳が私の目の前を掠める。今のは危なかった。
「あれぇ~?何か居ると思ったんだけどな」
「宇佐美上等兵、どうかしたのかね」
「何でもありませんよ、鶴見中尉!」
ニコニコと部屋の中に入らず、ドアの前に立っている「うさみ」という男に気持ち悪さを感じ、杉元の道具や荷物を影の中に仕舞っていく。
「これ、弾合ってる?」
全部、同じに見える。
杉元のヤツに似てるのを持っていこう。
いそいそと影の中に弾を落としている途中、暴れる音が聞こえ、杉元の雄叫びが聴こえてきた。怪我したなら助ける。
「(でも、その前に剣路のところに戻って逃げる準備をしないといけない)」
また、廊下を歩いていると「おがた」の寝ている病室の前に通りかかり、剣路に近付くなと言われていたけど。怪我人ならお見舞いくらいしていいと思う。
私とおがたは知り合いじゃないけど。
「…………だえか、いうのか?」
「(ん、やっぱり変態は感覚が鋭い)」
ウンウンと頷きながら顔色の悪いおがたの頭を優しく撫でてあげる。剣路にバレたら怒られるから、すぐに止めたものの、目が合った気がする。
それに、あの男は嫌な気配がする。
取り憑いているのも変な感じだ。
ここには、変なのしかいないの?と小首を傾げながら、また屋根を伝って剣路の部屋に戻るとドアがガチャガチャと揺れ、すごいことになっていた。
ん、剣路は人気者なんだね。