五稜郭。
かつては剣客兵器の凍座白也の尋問を行った場所であり、糸色姿と相楽左之助の二人の初戦を迎えた場所でもあり、私にとっても覚えのある場所だ。
「しとり、離れるなよ」
「しとり、こっちだぞ」
「ん、すぐに行く……はあ」
そう言って移動しようとしたとき、私の方に向かって小柄が飛んできた。ご丁寧に毒を塗り込んだ小柄に思わず、深く溜め息を吐いてしまった。
杉元達の警戒を無視し、私は「先に行ってて良いよ。狙いは私だけみたいだし」と伝える。石垣の裏側、三人の兵士の亡骸を蹴り出して、現れたのは女だ。
───だけど。見覚えの無い女だ。
「貴女、だれ?」
「そういう貴女こそだれ?」
その言葉に刀に伸びていた手が止まり、腕を組み、少しだけ考えてみる。
「糸巻きに色付くと書いて、糸色。絶後の後でしとりと書く。好きなものはみたらし団子、夫が居て、四人の子供がいる人妻かな?」
「……人妻かなって、貴女は逆ハーレム狙いの
「ん、逆はあれむってなに?あと私は『
「OK。理解したわ、私の勘違いなのね。私の名前は
そう言うと小さな亀の甲羅を両手に嵌めた。
「痛いわよ、当たったら!」
軽やかな踏み込みと同時に繰り出された左の縦拳を見て避け、そのまま腕の軸を変え、甲羅を利用した頭への裏拳を避け、続けざまに返す刀で放たれた斜め下に向けての拳槌を電光丸の鞘で受け止める。
「……空手?」
「どっちかと言えばジークンドーよ。って、この時代だとまだジークンドーってないのよね?あー、もう面倒臭くなってきたわ」
「拳打の軽さを甲羅の重さで補うのは構わないけど。もう斬っちゃったかな」
「え?あ、あららぁ……」
カチンと左手で刀を鞘に納める。
───すると、彼女の両手に嵌めていた亀の甲羅は真っ二つに切り落とされ、地面に転がる。多分、年下の女の子なんだろうけど。
「強くなったらまた相手してあげる」
「…はあ、金塊ほしかったなー。陸軍栖鳳中学校の給仕婦、あんまり自信無いのよね…まあ、尾形の目を潰せたのは良かったけど」
「それ。理由を聞かせ……逃げるの速いね」
そう言い残して彼女は消えた。
いや、走って逃げた。そんなことを考えながら鶴見達と出会う前に五稜郭に入り、足跡を追う。
すごく懐かしい。
母様のいた場所だから、よく覚えている。