騒がしくなる駐屯所の廊下。
剣路も刀帯の留め具を
「しとり、オレの鞄と荷物持って逃げろ」
「ん、ちゃんと逃げ切ってね」
小さな声で話しながら私は血まみれの杉元を見つめていると、彼の視線が私に向いた瞬間に、剣路と自分を指差し、ゆっくりと頷いて見せる。
「私ももう帰る!」
「なに?」
「あ、待て!?」
鶴見達も杉元に集中している今、私は竹刀を納めた刀袋を持って廊下を走る。みんな遅いから、問題ない。そんなことを思っていたら、褌だけになりながら、いそいそと兵隊の服を盗む由竹を見つけた。
由竹、着るものも質屋に売ったの?
「よし、あとは火を点ければ」
マッチを擦って火を点ける由竹にビックリしながらも窓枠に足を乗せ、薄暗い地面に着地した瞬間、私の目の前を馬に乗った鶴見が横切る。
────目が合った。
ああいう目は嫌いだな。
革長靴で雪で湿った地面を蹴り、袴に泥が付くよりも速く杉元の事を追いかける。剣路も杉元の方を見ていたから、捕まらずに来るはずだ。
外に置かれた酒樽を踏み、屋根に跳び移りながら杉元の事を探していると白い何かに乗り、月明かりも照らさない通りを駆け抜けるアシリパを見つけた。
いぬ?と小首を傾げつつ、屋根の上を走っていく。
「アシリパ、杉元はもっと先にいる!」
「緋村、どこを走ってる!見つかるぞ!」
「ん、見つかっても名前も顔も分からないよ」
そう話しながら屋根を飛び降りて、鶴見の馬を射るアシリパの弓術の腕前に感心しつつ、鶴見に気付かれないように杉元の方に駆け寄ると、やっぱり睨まれた。
「アンタ、やっぱり第七師団と繋がってたな」
「剣路を見せたでしょう?それに剣路は満期除隊だったはずなのに、北海道に送り込まれたらしい。ちょっとだけきな臭い」
山県のおじさん*1に電報送ろうかな。
「言い争っている暇はないぞ、杉元。さっきまで緋村が注意を引き付けてくれたんだ」
「……そうなのか?」
「ん、剣路がまだ頑張ってるけど。そろそろ此方に到着すると思う」
そう傷だらけの杉元を馬に乗せ、白い……狼に怯える馬の手綱を引いてあげる。志葉のところの馬より大きい。いっぱい食べて育った馬だね。
「しとり、遅くなった」
「ん、なんで鞘が壊れてるの?」
「無駄に向かってきた奴らを殴り倒してきた」
「剣鬼の緋村か」
「オレら鬼じゃねえよ、言うなら抜刀斎のほうだ。あとオレの女を睨むな。こいつが鶴見なんぞに飼い慣らせるわけがねえ」
ワシャワシャと頭を乱暴に撫でてきた剣路を見遣り、みんなでアシリパの使っている狩猟のための仮小屋、クチャに向かうことになった。
……お風呂、入ろう。
【概要用語解説】
本作の単語や転生者、その親族を解説します。
【
【挿絵表示】
本名「
年齢は28歳(数え年の27歳)。身長は160cm。
「さよなら絶望先生」および「るろうに剣心」に登場するニ家の血筋を受け継ぎ、糸色景と相楽左之助の子供として生誕した現地人。
緋村剣路と十五歳の時に祝言を挙げ、その年内に懐妊し、男女の双子の母親となる。子供を連れて父・相楽左之助の代わりに交易に赴き、日本諸国、アメリカや蒙古、大陸など渡り歩き、交易(実際は子供を連れたまま、その現地を広く深く冒険)していた。
現在、北海道の小樽に居を構える実妹・ひとえに子供(五年前、次男を出産)を預け、糸色景のやり残した事を終えるため、帰ってこない夫・緋村剣路を連れ戻すため、十数年振りに北海道へとやって来た。
好物は串団子。
・糸色家十三代目当主
実母と叔父の代わりに糸色家を継ぎ、三人の内の誰かに継ぐように話している。ただし、蛮竜が認めて、二重の極みも使えなければ当主にしない。
・子供
緋村剣路との子供。
長男と長女、次男を出産している。