鳳凰天舞は楔になってくれた。
色々と文句を言うであろう紗那の事も気になるけど。日本で一番強い剣士は私なのは代わりないし、いつでも挑んでくれば良いと思う。
「ん、ただいま」
「おう」
東京の母様と父様、私とひとえの暮らしていた商家の門を潜り、玄関先で仁王のごとく立つ剣路に手を振り、すっと両腕を広げる。
温かくてちょっとだけ力の強いけんちゃんの身体が沈んだ。後ろを見ると父様が怒った顔をしていたので、後ろから殴ったんだろうと納得した。
「父様もただいま」
「おかえり。門はどうだった?」
「戦骨に会ったよ。けど、母様は出てこなかった」
地獄の門は死して禍根を遺す人間を選別し、門を見張る私達にぶつけている。ごく稀に「向こう側の私」と母様は呟いていた事を思い出して、悩む。
あの鎧の男達が理由なのかな。
「よいしょ」
「オレが持つぞ。しとり」
「父様は引き摺るからダメだよ」
「良いだろ、引き摺るぐらい」
「禿げちゃうよ」
私の言葉に「禿げちまえよ、こんなヤツ」と父様はまた怒っている。ん、そういうのはいい加減にしないとお墓参りで帰ってきた母様に怒られるよ?
そういうと父様は渋々とけんちゃんを運ぶ。
くるりと私は後ろに振り返って正門の影に隠れて、逃げようとしている人を見遣る。
「ん、母様も入ろう?」
『……えと、見えてます?』
目を見開いている母様は可愛くて大好き。
「バッチリと見えてる。ずっと北海道で感じてた気配も何となく母様だと思ってた。ありがとう、私の事もひーちゃんのことも見守ってくれて」
『私は、お母さんですから。大切な子供を見守るのは当然なんですけど、しとりは強いからと男の人を煽るのはやめましょうね?』
「ん、絶対にヤだ」
『ひぃんっ』
ずっと覚えている泣き声にクスクスと笑い、私のおでこにおでこを合わせた母様は『ちゃんと見守っていますから、安心してくださいね』と笑ってくれた。
うん、ずっと見守っててね。母様。
『ところで、この家中に貼られたお札はどうにかなりませんか?霊視の使えない左之助さんは良いんですが、どうにも縛り付ける気配まみれなので…』
「え、やだよ?」
私の言葉に慌てて逃げようとする母様を抱き締める。私より小さくて、こんなに細いのに何でも知っている優しく大好きだった母親の温もりだ。
「しとり、剣路は寝かせといたぞ」
「ありがとう、父様」
父様にお礼を言いながら玄関を抜け、フヨフヨと浮かぶ母様に微笑みを向ける。
糸色しとりで、相楽しとりで、緋村しとり。
私は、欲張りだから躊躇しないよ。
何故なら、私は…!
────最も手を伸ばすのは神威の花だもん。
このお話で原作本編「ゴールデンカムイ」およびクロス本編「最も手を伸ばすのは神威の花。」は終わりです。
次回作は「月光条例」の予定ですが、ほんのちょっと暫くは投稿を止めていた作品を投稿しようかと思っています。
ご愛読、ありがとうございました。