一旦、杉元達と別れた翌日の昼。
私は小樽の一等地を買って建築されたひとえの治める糸色家の正門を潜り抜けて、玄関から入って案内されるがままに、剣路と一緒に大広間の上座に座っているお腹の大きくなったひとえを見る。
「お久し振りです、ねえ様」
「ん、久し振りだね。ひとえ」
母様の眼鏡を掛けて穏やかに笑うひとえの傍には私と剣路の子供達もひとえの子供達も集まっていて、みんなでスヤスヤと眠っている。
「……こんなに大きくなってたのか」
「上の子は二人とも十二歳だよ。末子も五歳になったけど、この子はまだ写真でしか剣路を知らないから、起きたら抱っこしてあげてね?」
「お、おう」
私の言葉に頷く剣路から離れ、赤ちゃんのいるひとえが転ばないように手を引いて、一緒に大広間の中を移動し、座布団の上にひとえを座らせる。
「ねえ様、剣路兄様と東京に帰るのですか?」
「ううん。少し厄介事に巻き込まれた。多分、此処に額当てを着けた鶴見って陸軍の男が来ると思う。その時は知らないふりをしてほしい」
「……フフ、何だかかあさまと同じですね」
「んッ……そう?」
「はい。ねえ様に託されたように、この私もかあさまに託された想いはあります。かあさまが言っていましたよ、仕事は納豆の様に粘り強くするものだって」
そう言って笑うひとえの笑顔は母様に似ている。
私と違って、ひとえは母様の神通力を使えるし、サンピタラカムイ様の巫女として異能者の大元締めも務めている。現し世と常世の間に立つ、巫女。
ひとえは、母様に似ている。
「北落師門の結界は万全なの?」
「抜かりありません。この子が産まれる日も妖怪や呪いに襲われる事は無いです。ただ、ねえ様の事を占うと少しモヤが見えます」
「……ん、何に気を付ければいい?」
「どうか猫にお気を付け下さい。それから雪山に二瓶鉄造がいるので、お会いしてほしいです」
ねこ?と小首を傾げる。
猫の妖怪ならドン達がいる、けど。
二瓶がいるんだ、会えるかな?
「分かった。ありがとう」
「お役に立てて良かったです。子供達は預かっていますから、厄介事を早々に終わらせて下さいね。相楽の名前も糸色の名前も緋村の名前も纏めて欲しがる欲張りさんなねえ様なんですから」
「ん、気を付ける。ひとえもお腹が大きいんだから無理せずに過ごしてね?」
「フフ、ねえ様とは違いますからね。ひーは愛しい旦那様のために健やかに生きております♪︎」
「それなら問題ないね。そういえば刈羽君もこの北海道に来てるんだよね?」
「えぇ、電報を預かっていますよ」
じゃあ、目的は土方歳三達かな……。
みんなにも伝えたほうが良い。