身体を洗って剣路の腕の中に収まるように小屋の中で眠った。母様の発明品を使いたいけど、まだちょっとだけ鶴見の仲間っぽい谷垣もいる。
今は我慢する。
お風呂に入りたい。
そんなことを考えながら白い狼の事を追いかけているという二瓶と谷垣の二人に付き添って、リュウと呼ばれるワンちゃんのお世話をしてあげる。
この子はとても賢くて良い子だね。
「小娘、香は塗っているか」
「ん、塗ってないよ」
「ぬはははっ。なら坊主の側に居るか、抱かれてその甘ったるい匂いを消しておけ。女の体臭に狼の嗅覚が感付くだろう」
「すごく失礼。二瓶、そんなんだったの?」
「ぬはははっ!!男の下世話だ、下世話っ!」
むう、と唸りながら剣路の着ている半纏を引っ張って着替える。スンスンと襟首や襟元を嗅いでも匂いなんてそんなに変わらない気がする。
───鋭い殺気を感じ、斜面の上を見る。
杉元と由竹の二人だ。
アシリパは、いない。
「寒い。返してくれ」
「ん、ありがとう。二瓶、私は離れてる」
剣路に視線を向ける。
すぐに木を蹴って斜面の上に飛び移る。
木を避けて、着地すると銃口が向く。
「ん、撃つなら撃つべき」
「アンタ、何がしたいんだ。俺達の行く先々に現れて、まるで未来を予知されてるみてえだ」
「止めろ。杉元、しとりちゃんは別にお前達を襲ったりしてねえだろ!」
「黙ってろ白石。緋村、ハッキリしろ。お前は鶴見中尉と結託して金塊を狙っているのか、それとも別の事で俺達の近くにいるのか」
ゆっくりと腰に佩いていた刀を鞘と一緒に抜いて、由竹に投げ渡す。私は刀が無かったら、ふつうに弱いから杉元でも倒せる。
「私は母様のやり残した事を終えるために、北海道にやって来ただけ」
「その母様ってのは、誰だ」
「私の母親は糸色景だよ」
そう告げた瞬間、杉元の顔付きが変わった。
「オイ、法螺だったら承知しねえぞ。俺の尊敬する糸色先生の子供の名前を語るなんざ」
「阿呆はお前だ。杉元ニシパ」
「ギャァーーーッ!!?」
杉元が踏み潰された。
「ん、ススハム。四日ぶり?」
「えぇ、久しぶりね。杉元ニシパ、疑わなくても問題ないわよ、しとりは正真正銘糸色景の二人娘の長女。相楽交易商会と糸色流剣術師範、それから日本諸国、清国、亜墨利加、蒙古を旅した女性冒険家よ」
モゴモゴと雪を口の中に詰めた杉元の目の前にしゃがみ、ゆっくりと手を差し出して立たせて上げる。あんまり母様の名前で威張りたくない。
「えと、サイン貰える…?」
「ん、私は物書きじゃないよ」
母様の本を買ってくれたんだ。
すごく嬉しい。