杉元は母様の本の愛読者だった。
それは嬉しく思うけど。
二瓶の事を殺そうとしていたという事実は拭えないし、杉元達の目的は二瓶の身体に描かれた刺青だって事も話して貰えた。
「二瓶、囚人だったの?」
「捕まったのは十年ほど前になるわね。当時のバカな盗賊のせいではあるけど。二瓶は警察の見ている前で、盗賊だった男のひとりを殺めた」
ススハムの言葉に私は口を噤み、悩む。
私もひとえも子供の頃に二瓶に優しくしてもらったし、ヒグマのお肉をよく貰っていたから悪人や囚人というイメージを持つことは出来ない。
ふと、剣路は知っているのかと考える。
「緋村さん、アンタには悪いが俺は二瓶鉄造の刺青人皮がほしいし、アシリパさんの大事な家族を殺させるつもりもない。もし、邪魔するならアンタでも容赦なく殺す」
「杉元の言いたいことは分かるよ。私も家族を傷つけられたら怒る。だけど、そんな事じゃ二瓶を止めるのは無理だよ」
二瓶は絶対に止まらない。
「────多分、どっちも負けず嫌いだから」
そう言って私は刀を返して貰い、剣路と二瓶、谷垣のいる斜面の下に向かって飛び下り、雪を削って着地する。私はどっちも止めない。
危なかったら助けるけど。止めたりしたら二瓶は怒るし、危ない事を率先してやる二瓶を止めるなら手足を折って動けなくしないとダメだ。
───だから、助けはする。
「ただいま」
「誰かと話してたのか」
「ん、ススハムがいたから話してた」
「ススハム……アイヌの人間か」
「谷垣より胸がおっきいよ」
「ヌッ!?」
自分を引き合いに出されて戸惑う谷垣に「ぬははははっ!ということは、あのババアか!」と二瓶は笑い飛ばす。やっぱりススハムと面識があるんだね。
「で、何を言ってきた。狼を狩るなか?」
「違う。二瓶を殺すって言われただけ」
「この俺を狩ろうと言うのかッ!ぬはははっ、面白い!返り討ちにしてくれるわっ!!勃起ィッ!!」
右腕を突き上げる二瓶に呆れながら、剣路と谷垣の事を見遣ると二人とも二瓶の話しにウンウンと頷いている。剣路も負けず嫌いだもんね。
いや、だからなのかな?
「……白い狼は強いよ」
白狼。アイヌの人達は狼の神様だと呼び、アシリパの大切な家族だから、私だって止めてしまいたいけれど。
「二瓶、死ぬ前に逃げるんだよ?」
「俺は負けん!勃起ッッ!!!!」
それは返事じゃないよと思いながら剣路も感化され始めている状況に、どうしようかと考えながら、私は獣の臭いに釣られ、山の奥を見上げる。
いた、白い狼だ。