二瓶と谷垣の目的は白い狼────。
杉元とアシリパ、由竹達の目的は二瓶の身体に描かれた刺青を写すか奪うこと。昔からの友達と、新しく出来た友達、どちらも捨てない。
どちらも助けたい。
「小娘、ススハムに言われたんだろうが構うな。俺は自分の死に様は自分で決める。俺と狼の雄としての全身全霊を懸けた戦いだ。女子供の出る幕は無い」
「ん、分かってるよ。二瓶に『その狼を殺さないで』ってお願いしても止まってくれない事も、二瓶が戦って満足して死にたいことも」
母様でも父様でも止めることは出来ない。
「坊主、お前も戦いに口を挟むなよ。コイツは俺達、猟師の戦いだ。剣客の出番は無いからな」
「元々手出しするつもりはねえよ。ただ、もうアンタの送ってくれる熊肉が食えなくなるのが、すげえ残念に思ってるだけだ」
「ぬははははっ!!言うじゃないか、坊主。だが、この戦いで勝つのは俺だ!!」
そう言って二瓶は不出来に解体され、食い散らかされたエゾシカの亡骸を見下ろし、笑った。カラスやキツネも来ていたのかと周囲を見回す。
あの白い狼はいない。
「(アシリパ、もしものときは私が止める)」
剣路の視線に気づき、頷く。
「二瓶、負けたら許さない。まだ母様の仏壇とお墓に手も合わせていないのに死んだら怒る」
「相楽の女房は気立ても良かったが、芯はお前のように通っていた。まあ、怖がりで臆病な癖に心配だからと死地に来る変わり者でもあったがな」
「ん、母様は優しすぎるだけだよ。私も妹も父様も友達もそんな母様が大好きだった。だから、私は母様のやり残した事を終わらせにきた」
そう言ってポンと刀の柄に手を置き、夜営をしようとする二瓶と谷垣の二人に鞄の中に仕舞っていた毛布を渡し、身近な木を探す。
止めるために、二人に食事を与える。
鞄の中に仕舞っていた注射器と瓶を取り出す。
「モルヒネか?」
「違う。これは木に使う薬だよ」
母様とドクトル・バタフライの発明品「植物改造エキス」を木の幹に刺すと急激に枝が生えて、まん丸と大きく実った木の実が出来る。
「「「妖術?」」」
「ん、すごく失礼だと思う」
木の実を千切って、三人に渡す。
「食えるのかこれ?」
不満そうに言う剣路の持つ木の実を二つに割ると、中から暖かい食べ物が出てくる。
「……なぜ、カレーが?」
「ん、糸色家の神秘」
「おお、温かい」
「相も変わらず、不可思議な女達だ」
カレーを食べ始める三人から離れ、リュウにも飼い犬用のご飯を木の実のなにもない方に乗せて、しっかりと食べさせてあげる。