杉元の助けた男は平凡な雰囲気と気弱な気配を纏っているけど。どこか久しぶりに会えた剣路の事を思い出す臭いがした。
「ヒンナか?杉元」
「ヒンナヒンナ」
アシリパに餌付けされる杉元から視線を海の方に向ける。剣路はまだクジラと戯れているのか、由竹に邪魔されているのか。
男の気配は変わらない。
けど、怪しいと思えるし、そう感じる。
やっぱり、怪しい。
そう思って歩いていたとき、アシリパの足が止まり、お手洗いに行くと言い出し、私も追いかけようとしたその時、見覚えのある紺色の服が見えた。
第七師団、もう追い付いてきた。
杉元に伝えようとしたら、いない。
あの男に連れていかれたのかと考えながら、第七師団を避けるように砂浜を走っていると海から這い出てきた剣路を見つけ、くしゃみを繰り返す彼を抱き上げ、岩影を探して走る。
「ん!入って!」
「ぶえっくしっ!!」
いそいそと剣路を母様の発明品「壁かけハウス」に押し込み、お風呂に行くように伝える。母様の発明品はすごく変わっているし、綺麗で不思議なものばかりだ。
岩影に戻ると、股座の光る男達が見えた。
「キッショ」
嫌な物を見たから、部屋に戻る。
床に落ちた海水を拭き取りつつ、剣路のくしゃみする声が浴室から聴こえてきた。あとで私も入ろう。剣路を抱えたときに濡れたし、磯臭い。
替えの服を用意し、浴室の前に置く。
「しとり、居るのか?」
「ん、なに?」
「悪いんだが、刀の手入れを頼めるか」
「分かった」
逆刃刀と打刀の二つの装飾や柄紐を解き、全部丁寧に拭いていく。鞘の中に海水は入っていないけど、一応、直しておかないといけない。
ん、大丈夫かな。
「どうだ?」
「刀身は大丈夫だったよ、鞘と柄は海水を吸ったから何日か洗って乾かさないとダメ。私の持ってる替えの拵えに変えるね」
「ありがとうな」
「ん、もっと言っていいよ。お義母様が『こんなに優しいお嫁がいるのに、あの子は本当に』って怒ってたから、もっと褒めていいんだよ」
「よく言うぜ。ったく」
呆れた溜め息を吐く剣路のほうに振り返ると、褌しか履いていなかった。
……やっぱり、銃の弾は当たったんだね。
「痛くないの?」
「ああ、これか。痛くねえよ。内臓に当たらなかったから良かった」
剣路の言葉に口を噤み、不満に思う。
剣路の足ならガトリングだって避けられる。多分、誰かを助けるために担いだか、持ち上げたときに撃たれた傷なんだろうけど。
やっぱり、居なくなるのはいやだ。
剣路は最後まで一緒にいてほしい。