「こんなの、はじめてぇ」
うっとりとお腹を刺され、今にも心臓を貫かれて死にそうなのに恍惚と笑みを浮かべ、杉元の事を見つめる辺見和雄の事を剣路と一緒に見下ろす。
「なんか、酔ったときのしとりみたいだな」
「ん!?」
ボソッと変なことを言う剣路にビックリして、彼の事を見上げると「いや、あんな猫なで声だぞ?」と言われ、ウンウンと唸ってしまう。
あんな声は出してないと、思う。
「お袋さんもお酒弱かったもんな」
ケラケラと笑う剣路の脇腹をつねり、辺見和雄が杉元に胸を銃剣で貫かれた瞬間、海の中からシャチが現れ、辺見和雄を海の中に引きずり込んでしまった。
「は?」
「ん」
「はあぁーーーっ!!?なにあれ?!」
「レプンカムイだ!杉元、舟に乗れ!」
「辺見和雄の刺青がシャチに食われちまう!剣路としとりさんもアシリパさんのおじさんの舟で着いてきてくれ!!」
杉元の言葉に突き動かされ、私と剣路はおじ様に舟を借りて、シャチの事を追いかける。ん、潮風で髪の毛がゴワゴワになっちゃいそう……。
鞄や刀、荷物を個魔に預けて舵を漕ぐ。
「しとり、もっと寄れ!」
「こう?」
剣路の胸の中に収まるように背中を預け、全力で舵を回して海水を掻き込み、舟を動かす剣路の真剣な顔付きに、不覚にもカッコいいと思った。
「見ろ!シャチが辺見をブン投げてるぞ!」
「ヒグマのリコシノッと同じようなものかも」
アシリパと由竹の言葉に視線を移すと辺見和雄は満面の笑顔を浮かべながら、シャチの群れに襲われ、投げられ、海面を跳ねていた。
「ちくしょうっ!!このクソ冷たい海に飛び込むのかッッ!!止まるなよ、俺の心臓ッ」
ドンドンと自分の心臓を叩いて叫ぶ杉元は何故か裸になっていた。褌まで脱ぐ必要はあったのかな?と思いながら、杉元の事を見つめる。
「アシリパさん!しとりさん!見ないでッ」
指の間から裸の杉元を見るアシリパにおませさんだなと思いつつ、何か言いたげにしている杉元に向かって、親指を突き立てた。
「ん、剣路の方が大きかった」
「聞きたくねえェーーーッ!!!」
そんなことを叫びながら海に飛び込み、辺見和雄を取り返しに向かう杉元を見ていると、不自然に蠢く何かが海の中に見えた。
「ありゃあ、鮫だ!!」
「ヘラㇱヌチェプ(アイヌ語の鮫のこと)だ!」
ちょっと忙しないと思う。
「私が、行く」
着物を脱ぎ、袴の帯を外す。
リボンを変える。
「ばっか!?死ぬぞ!」
「大丈夫。私は、一番強い」
そう剣路のおでこにキスをして海に飛び込む。
冷たい。いや、痛い?
そんなことを考えながら、シャチの群れと鮫に囲まれた杉元に近付き、短刀の柄頭を鮫の鼻先に叩き落とし、一緒に辺見和雄を持ち上げる。
意外と重たい?