翌々日。
私達はアシリパのコタンに戻り、谷垣にキロランケの事を見て貰おうとする杉元の背中を眺めつつ、アシリパのフチ(アイヌ語の祖母)とオソマの二人にお土産の野菜やニシンを渡す。
剣路はオソマの父親やススハムのところに行っている。小樽の近くだからひとえのところに会いに行くのも良いかも知れないけど。見張りがいる可能性もある。
「小樽から旭川に向かい、物資を補給して、網走監獄に向かう」
「網走に向かうのか。だが、旭川には第七師団の本部がある。脱走兵扱いの緋村や、すでに警戒されている杉元は特に危険だ」
私は大丈夫なの?と剣路を見る。すると、私の目を見るより前に「オレの妻はどうなんだ?」と谷垣に聞き、キロランケも不思議そうに私を見てきた。
「さっきも言っていたが、そのしとりというお嬢さんは鶴見中尉達と関係があるのか?」
「───鶴見中尉というよりその子の母親は明治政府や陸軍将校の知り合いね」
チセの入り口を潜って入ってきたススハムにキロランケが「相変わらず、良い尻だ」と呟いた瞬間、キロランケは床に向かって倒れた。
よく見ると顎先が腫れている。
「(前蹴り?)」
「しとり、アンタの着替えよ」
「ん!」
アイヌの民族衣装を差し出され、ススハムの家に向かう。確かムカルの妹がまだ家に居るとは聞いている。ススハムの子供だからきっと強い。
「サポ。だれそれ」
「私の親友の娘、相楽しとり。アンタより年上だから蹴ったりしちゃダメだからな」
「ん、おっきいね」
思わず、そう言ってしまうほどに巨大だ。
「まあね。サポの遺伝のおかげで、私はかなり巨大だと自負しているし、アシリパもよくこの胸に埋もれて眠っているわよ」
「じゃあ、お姉さんなんだね」
「……そうよ。私、ウナイメル*1。アシリパのお姉さんなんだから!ぽっとで?のアンタには負けないわよ!」
「ん、私はマダムだから無関係だよ」
「サポ、マダムってなに?」
「人妻」
ススハムが簡単に答えたらウナイメルが倒れた。そんなにビックリすることだったかな?と小首を傾げつつ、チラチラとチセの外を見るウナイメル。
そんなにマダムになった私の姿が珍しいのかと思いつつ、着替える途中、リボンが解けてしまい、またリボンで締め直す。
「くっ、顔が良い…!」
「ん、ありがとう?」
「みんなに言われるわね、流石は糸色家」
ん、私が可愛くて綺麗なのは常識。