「由竹、自己紹介して」
そう言うと着替えていた由竹は私を見る。逃げようとしているのは分かっているけど、みんなの名前を聞いておけば良いこともあると思う。
「俺は白石由竹だ。網走監獄の囚人、人呼んで脱獄王だ。今はしとりちゃんに頼まれて、様変わりした小樽の町を案内していたところだ」
「……笠原勘次郎だ。助けて貰ったが、アンタ等と一緒に居るつもりはねえ。北鎮部隊なんぞとまともにやり合おうなんて馬鹿はいるかよッ」
半裸の男、
「白石、案内先は何処だ」
「ん、小樽の山奥のコタンだよ。母様のやり残した事、親友に借りていたアイヌの鉢巻きを返しに私が代わりに来ているんだけど」
竹刀を杉元に投げ渡して無防備になりながら、鞄を開けてアイヌの紋様のある鉢巻きを取り出し、アシリパに見せる。
「ウナラペのマタンプシだ。杉元、此方のシサムは信用して良い。昔、フチにも聞いたことがある。青い目のシサムに泊まっていたときがあるって」
彼女の言葉に杉元は少しだけ警戒心を緩めつつ、私に竹刀を返してきた。護身用として持っているだけで、本命の電光丸は袖の中に隠している。
けど、雷も受け止めそうな殺気だ。
やっぱり、剣路もこうなっているのかな?なんて思いながら、私は鞄に手を伸ばす笠原の顎先に竹刀をくっ付け、にこりと微笑みを浮かべる。
「冗談だよ。銃は持ってねえみたいだしな」
「私は銃弾より速いから要らない」
「……さっきも見たがアンタの足捌き、ありゃあ緋村剣路の使っている流派と同じか?弾丸を見切って刀一本で戦場を駆け抜ける話しは何度も聞いていたが……」
「剣路は強いから銃は要らないよ。……剣路、北海道のどこに居るのかな?」
ぼんやりと呟きながら逃げ出そうとする由竹の襟首を掴み、ペチンとおでこに道案内してくれた御給金をそのまま差し出す。
「さ、三円もお!?」
「ん、もう危ない事しちゃダメだよ?」
よしよしと頭を撫でてあげ、由竹を見送ろうとしているのに、いっこうに離れない。というより、チラチラと私の事を見ている。
「おっかちゃあぁん!?」
「ん、笠原にあげるね」
「おい止めろ!?白石!?」
「うわあ…汚いな」
「アシリパさんは見ちゃダメだからね」
「私はどうしてもススハムに会いたい。母様が最後に返したいと言っていたものと、母様が預けていたものを返して貰いたい。アシリパ、杉元でもいいけど。案内して欲しい、御給金は出す」
私のお願いに二人は顔を見合わせ、私が由竹と笠原の刺青について聞いてこない理由を問われる。
「私の家は名家だからお金に困ってない。そもそも金塊なんて換金するのも面倒だから要らない」