札幌、すごく見覚えのある場所だ。
母様と一緒に歩いた記憶がある。鉄砲店に行っているみんなと離れ、町中を歩いているとチョビ髭の生えた阿部十郎を見つけ、トンと阿部十郎の背中に電光丸の刀の柄頭を押し付ける。
「ん、久しぶりだね。阿部」
「……糸色の娘か。驚かせるな」
「! フフ、一回で分かってくれたのは阿部だけだよ。みんな、私が立派なマダムになったから分からなくなっているのか、悩むか警戒するんだよ」
そう話していると林檎を渡され、阿部の事を見上げると「新しく品種改良してみた。食べてみろ」と言われ、シャクリと林檎に噛みつく。
甘い。苦味や酸っぱさはないし、甘味が口の中に広がる、それに瑞々しさも昔の物より上だ。けど、ただ甘いだけじゃなくて舌触りも後味も悪くない。
「ん、美味しいよ。送って貰っていた林檎より甘かった。此方はひとえに送ってあげてほしいな」
阿部と話していたその時、視線を感じて通りのほうを見ると牛山辰馬と刈羽君、ムカルの三人がいた。牛山は気付いていなかったけど。
ムカルと刈羽君は私に気付いていた。
「アイヌとダンダラ羽織、新撰組の真似事か」
「阿部もそう思うの?」
「ああ、五稜郭の最後もそうだった」
そう言うと阿部は林檎の入った紙袋を私に押し付け、何処かに行ってしまった。けど、あの拳銃はまだ持っているんだと感心してしまう。
それに仕込み刀を持っていた。
一刀一挺の銃剣使い。
母様はそう称していた彼の腕はまだ衰えておらず、むしろ研鑽を重ねて更なる強さを手に入れている可能性もあるわけだ。
「しとり、誰かと話してたのか?」
「ん、林檎を貰ってた」
「林檎?」
私の抱えた紙袋を見下ろして、不思議そうにする剣路と一緒に杉元達の向かったという「札幌世界ホテル」に向かい、ホテルで荷物整理をするために歩く。
ホテルの観音開きのドアを開けた瞬間、血の臭いが充満していることに気付きつつ、剣路を見ると剣路もしっかりと気付いている。
「剣路、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「大変失礼致しました。お部屋にご案内…!」
「?」
「妻の顔がどうかしたのか?」
「い、いえ、奥さまの顔があまりにも綺麗な顔だと思い、見惚れてしまいました」
「褒められた。ありがとう」
ムフーッと胸を張って剣路を見ると「お前が綺麗なのは知ってるよ」と言われ、私の林檎の入った紙袋を取り上げ、部屋の中に入ると剣路は壁を軽く触った。
「(空洞、あの女将なら通れるか?)」
「剣路、しとり、ご飯に行こう!」
「由竹は?」
「多分、オソマだ」