「もしもモンスターを倒せたのならアザラシの服を返そう。君達には無理かも知れないが、危なければ逃げると良い」
「喧嘩売ってんのか、エディーさん」
エディー・ダンの言葉に目付きの悪くなる杉元とキロランケの意識を切り替えるように、パンと軽く柏手を打って全員の意識を向ける。
「ん、先ずそのモンスター?を教えて欲しい」
「あのモンスターは、赤毛のヒグマだ。ただし、普通のヒグマと違う。死なないのだ。十数年前、函館に出没したという人喰いヒグマも赤毛だったそうだ」
十数年前の函館?と小首を傾げていたとき、ふと真夜中に母様と父様と住んでいた家にやって来た大きな動物の事を思い出した。
あの時の動物、ヒグマだったんだ。
ちょっとだけ納得しつつ、悩む。
そうなったら倒すには妖刀を使わないといけない。まだ杉元達にも妖刀は見せていないし、電光丸も刀身が見える前に納刀している。
「──時に、お嬢さんに聞きたいことがある」
「ん、私?」
「そう、君だ。二十年ほど前、アメリカに居たときに君に似た女性を見掛けた覚えがある。彼女は眼鏡を掛けていたが、男爵と仲良くしていた筈だ」
みんなも私に視線が向き、私の反応を待っているように見えるけど。でも、その頃の私はまだ赤ちゃんだったはずだから会っていないし、覚えていない。
じゃあ、これも母様の事だ。
「ん、二十年ぐらい前なら私の赤ちゃんのときだね。多分、エディーが言っているのは母様の事だよ」
「なんでアメリカにいたんだ?」
「………………明治政府の陰謀?」
「OK。聞くのは良そう」
「ん、交易と牧場に尽力してるならエディーも相楽交易商に来ると良い。私の父様が社長だから私の友達だって言えば仲良く出来る」
「あれ、ウソだぞ。親父さん、しとりとアイツの妹をすげえ大事にしてるからお友達とか言ったら仲良くする前に殴る」
「じゃあ、なんであんなことを?」
「寄るな白石。口が臭い!」
「普通に怒ってるんだよ。しとりは祝言とかそういう出来事をすごく大事にしている。多分、亡くなったお袋さんの影響なんだろうけど。アイツは優しいからさ」
ん、話し声は聞こえている。
エディーには聞こえていないみたいだけど。キロランケも納得したように頷くのはどうかと思う。そう思っていた次の瞬間、ドアを慌ただしく開けて入ってきた猟師の男に急かされ、牧場のほうに向かう。
───そこにいたヒグマはおかしかった。
「で、でけぇ!」
「3メートル以上はあるぞ。ありゃあ」
「キムンカムイだ……」
みんなが納得する中、私は何かを思い出した。
「赤兜…」
母様の教えてくれた最強の熊の名前だ。