「白石、退け!」
「わっ、ととぉ?!」
「ケツゥーーーッ!!」
杉元の構える歩兵銃を避けようとした結果、由竹はアシリパの事をお尻で踏み潰してしまい、歩兵銃の弾は外れ、ヒグマは森の奥に消える。
「あの様な化け物だ。君達がもしも倒せたのならアザラシの服を返そう」
そう言い残してエディーは屋敷へと帰っていき、私達はあの赤毛のヒグマを追うことになった。由竹はバカだから危ないけど、キロランケもいる。
「しとり、離れるなよ」
「ん、分かった」
剣路の言葉に頷いて森の中に踏み入れ、特に変わった気配や臭いはしない。剣路も左手を刀に添えて、いつでも抜けるようにしている。
だけど、ヒグマは見えない。
「ヒグマの足跡があるな」
「小樽の雪山で見たものより大きいね。剣路の刀で斬れるのか怪しくなってきたんじゃい?」
「ばーか。オレは鉄だって斬れるぞ」
斬鉄の技は基本だから威張れないよ。
────でも、気になるのは靴跡だ。
「こんな場所に入る人がいるのかな」
「さあな。少なくとも普通の人間はヒグマの近くに住もうなんて考えないし。どうせ、極道か逃げてきたチンピラとかだろう」
「……網走監獄の囚人も?」
「可能性はある」
そう言うと考え込み始める剣路の横顔を見つめていたその時、強烈な獣臭さに真後ろに振り返り、刀の切っ先を向けると巨大な赤毛のヒグマが此方を見下ろしていた。
「片目がない?」
「指じゃなかったのか!?」
「ヴオォオッ……!」
ビリビリと空気の震える雄叫びにビックリしながらも突撃してきたヒグマの突進を避け、剣路と一緒に斬り込もうとした刹那、農家を見つける。
「剣路!杉元達も見つけた!」
「なら、そっちに走れ!」
その言葉に呼応するように私と剣路は走り、農家の戸を掴むも開かず、迫り来るヒグマの音が聞こえる。
「しとり、此方だ!」
「んっ!」
剣路は自分の刀を地面に突き刺すと刀の鍔を踏みつけて、私をお姫様抱っこで抱き上げたまま二階の縁を掴み、農家の屋根まで片手で跳ね上がる。
「し、死ぬかと思ったぜ…」
「ん、格好良かったよ」
「オレはいつも格好良いだろう?」
そう二階の屋根で話していると由竹の声が聞こえ、農家の窓から家の中に入っていくアシリパと杉元、エディーの雇った猟師の三人が窓の中に雪崩れ込んでいく後ろに迫るヒグマに瓦を叩きつける。
「ん!ん!ん!」
「お前らもっと奥に行け!!」
剣路の怒声に家の中で動く音が聞こえる。
「しとり、刀貸してくれるか?」
「剣路に使えるの、似蛭だけだよ?」
「ぐむっ、だよなあ……」
刀、あとで取りに行こうね。