アイヌのコタンに寄り、アシリパの使う矢の補充をするついでに休むことになった。ついでに川から水を汲んでお風呂を沸かそう。
そう思っていたのに、血の臭いが酷い。
動物の臭いではなく、人の血だ。
アシリパもその事に気付いているし、何か怪しいと感じているのは間違いない。あと私の事を見るアイヌの男達の目が不埒だ。
チラリと見る。
ん、やっぱり他のアイヌと耳が違う。
「オソマ行ってくる」
「私が着いていくよ」
杉元に刀を渡して無防備を装おう。
「ごめんね、しとりさん」
「ん、大丈夫だよ。あと、オガタ」
「なんだ」
「ニホホニホロホケホコ」
「ははぁ……そういうことか」
そう言ってチセを出るとき、オガタの目付きは変わるのが分かった。杉元と違ってオガタは上等兵で、鶴見は情報将校だから私の言葉も理解してくれた。
さっき、私が呟いた「ニホホニホロホケホコ」というのは簡単に言えば「任務を与える、歩兵は包囲攻撃に移り、歩兵の威力を以て撲滅せよ」になるかな。
杉元は分かってなかったみたいだけど。
「やっぱりだ。もう還す時期なのッ!?」
「アンタも動くなよ?」
「……ん、動かないよ」
ちょっと予想外ではないけど。
ほとんどのアイヌじゃない。このコタンにいる男のアイヌはみんな偽物だ。少し不満げに眉を曲げつつ、刀を抜くか迷う。
電光丸以外はすごく危ない。
アシリパを捕まえた男とは別の男が現れ、どこかで見た覚えがあるような、ないような、そんな曖昧な男がいた。
「あ、あなた…!」
「知り合いか?熊岸」
くまぎし。
じゃあ、この男が贋作家?と小首を傾げつつ、アシリパと一緒に逃げないように手を拘束され、誰もいないチセに押し込まれ、お札を製造する機械が鎮座しているのが見えた。
「……お久し振りです、糸色景さん」
「ん、違う。私は相楽しとり、母様じゃない」
「え?」
あ、思い出した。
こいつ、母様の裸婦を描きたいとか言ってたヤツだ。父様がそう言っていたから合っている。*1フスと鼻を鳴らして出てきた親分が爪を使って、手を縛る縄を切ってくれ、アシリパの縄も切ってくれる。
「熊岸、私は娘のしとりだよ」
手首を擦って身体の動きを確かめつつ、そう眼鏡を掛けている男、熊岸長庵にもう一度そう伝えると「では、あのひとはもう……」と項垂れる。
ん、母様の愛読者はいっぱいいる。
「ぷはっ、しとりの知り合いなのか?」
「違う。母様の裸を見たいと言った変態さん」
「変わったヤツだな」
ん、それだけ母様は綺麗だったからね。