谷垣がいきなりアイヌに襲われた事に驚き、何事かと日本語の分かるアイヌを探して理由を問えば、動物を穢すだけ穢して逃げ回っている凶悪犯だと谷垣は勘違いされてしまっているらしい。
……姉畑支遁の仕業だ。
「キラウシ、谷垣は人間の女に欲情する真面目な男だから動物に、そういうことをする人じゃないんだよ。確かに、怪しいかも知れないけど」
「だが、シカの近くに置かれていた村田銃は間違いなく二瓶の物だった。谷垣がしてなくてもしていても捕まえるまで分からない」
こういうとき、ススハムに会えたら良いんだけど。
母様の事を思い出すからとススハムはあまり私とひとえに会ってくれない。親友だからこそまだ引きずってくれているんだろうけど。
「ん、悩ましい」
「シトゥリさん、このままでは谷垣ニシパが」
「分かってる。アシリパ達に合流して谷垣の誤解を解いて貰わないといけない」
姉畑支遁の目的は動物と不埒な事をすること。
そのために姉畑支遁は私を狙うはずだ。
「親分、アシリパ達のところにチカパシとインカラマッを連れていってあげてくれる?」
そう言って私の影から飛び出したスネコスリは身の丈を遥かに越える巨大な化け猫に変わり、身体の中に入ることの出来る穴を作り出す。
化け猫は乗り物に化ける。
そういう迷信を力に変えて、親分はドタドタと森の中を駆け抜けていく。
「驚いた。オコッコ・チャペを飼っていたのか」
「ん、大事な家族だよ」
私の言葉に「カムイ達に好かれる女性だな」とキラウシは笑い、私は谷垣を殺させないためにアイヌのコタンに移動する。
刀や荷物は渡していないけど。
捕まったら裸にされるってススハムが言っていた。ものすごくイヤだけど、二瓶の弟子で友達の谷垣を助けるためだから我慢してあげる。
しかし、本当に動物と不埒な事して、姉畑支遁は何がしたいんだろう?と小首を傾げつつ、キラウシのコタンに入るなり、怒る大男に肩を掴まれ、思わず、顎を弾いて意識を刈り取ってしまった。
「ん、ごめん。ビックリしたから」
「今の、どうやったんだ?」
「顎の先をこうやって速く撫でると脳みそが揺れて、意識を刈り取る事が出来るんだよ。西洋だと、ボクシング?で使われる技術だったと思う」
「そんなものがあるのか。とりあえず、窮屈かも知れないが、あの小熊の檻に入ってもらうことになる。女性にこんなことはしたくないんだが…」
「ん、大丈夫だよ」
私の姿は見えないように布を内側から張るし、着替えもカバンの中にいっぱいある。お風呂もこのカバンの中に入れば問題ない。