姉畑支遁は山へと帰った。
ヒグマとして余生を過ごすと楽しそうに話し、消えていった姉畑支遁を、みんなで見送った。アレはもう私達には救えない存在になったんだと思う。
「しとり、アレどうするんだ?」
「アシリパ、人はね。面倒臭いことを後回しにする癖があるから、こういうときにするのは目印を付けることなんだよ」
そう言って私は四足歩行で山へと帰っていく姉畑支遁の背中に「飼い熊」と文字を指差す。ああしておけば撃たれることはない。
オガタも杉元も谷垣も微妙な顔をしているけど。こういうときは一番の解決法は見守ること。人の幸せを邪魔するのは悪いことだからね。
「あ!しとりちゃん!」
「ん、由竹だ」
チカパシとインカラマッも一緒に居ることに気付き、剣路も一緒に居るのかと辺りを見回していたその時、後ろから抱きつかれ、首筋を噛まれた。
「んッ!……剣路、イタズラはだめ」
「イタズラじゃねえよ」
稲妻強盗の事を聞けば、ひとえが空き家を手配し、一先ず騒動が終わるまで匿うことにしたらしい。ん、ひとえの裁量なら信用できる。
そんな私と剣路のやり取りを見ていたオガタの目にほの暗いものが見えた気がする。どこか迷子の子供のようにも思えるけど、やっぱりまだ分からない。
母様やひとえみたいに人の心を読み取り、癒やして導くなんてことは私には難しい。出来るのは料理とか斬るとかそういうことのほうが得意だ。
「海に行こう。今の時期はウミガメが産卵に来ているから取りやすいんだ」
「そうなんだ。じゃあ、鶴も亀も食べて験担ぎだ」
アシリパと杉元の言葉に頷いて、海に向かって歩き出す。谷垣とインカラマッの雰囲気に何だか良いものを感じる。
「しとり、亀って美味しいのか?」
「ん、私は食べたことないけど……その」
「男は精力的になる、か?」
わざと言葉を濁していたのに、そう言い放ったオガタのせいでみんながぎこちなくなる。けど、私と剣路は関係ないね、夫婦だから!
チラリと剣路を見ると、剣路も私を見ていた。
「四人目か……」
「ん、気が早い」
「キャハーッ!剣路ったらエッチ!」
「アシリパさんに何てこと聞かせやがる!」
「うるせぇわ!」
きゃっきゃっと暴れだす杉元と由竹に怒った剣路は揉み合いの取っ組み合いを始めるけど。絶対に殴ったりすることはなかった。
「ん、オガタのせいだよ」
「ははぁ、なんのことだか」
「オガタは好きな人とかいないの?」
「さて、な」
言葉を濁して先に行こうとするオガタに気づいた恋の話が大好きな杉元と由竹は近付き、とてもものすごく楽しそうにワクワクしている。