「ん、網走監獄を落とす」
カチンと電光丸を納刀する。
「具体的な案はあるのか。相楽」
「……県ごと買収?」
「やるな。阿呆が」
「流石は糸色家だな。規模が違う」
私の言葉を批判する斎藤と土方にムッとしつつ、国を買収するのはダメなのかと納得する。日露戦争のとき、支援物資をいっぱい送ったのにね。
「剣路、糸色ってそんなにすごいのか?」
「アシリパ、糸色家っていうのは四百年も続いている家だ。政治家や芸能、軍にも交易にも糸色家の人間は居るんだ。おまけに、しとりの父親は日本交易の重鎮だ」
「じゃあ、しとりもすごいんだな!」
「……ああ、すごいぞ。子供の頃から何でも出来るし、アイツはどんな時でも翳らず、ずっとと太陽みたいに笑うんだ」
ん、聴こえるところで話すのはダメ。
ふつうに恥ずかしい。
「ねえねえ、しとりちゃん」
「ん、なに?由竹」
「しとりちゃんのパパの名前ってなに?」
「相楽左之助」
由竹の質問に小首を傾げながら応えると軍人の空気が変わるのがわかった。とくに、オガタの視線の鋭さは増している気がする。
「日本最強の喧嘩屋か。面白い」
「マジで、あの相楽左之助?」
トキメキを感じる乙女みたいな顔になった杉元の的には「花海棠の恋」という恋愛小説が握られ、著者の部分にひとえの名前があった。
ん、母様と父様の恋物語だね。
でも、ドクトルや父様、お義母様の脚色がいっぱいあると思う。私の知っている母様は怖がりで、泣きそうでも歩いていこうとする人だ。
すごく可愛かった。
「さ、サインとか貰えるかな」
「……杉元は、恋が好きなの?」
「よ、よせやぁい。俺は男だよ、そ、そんなのが好きなんて」
「父様、いま網走にいるよ」
「お願いします!!」
ん、元気なのは良いことだね。
それにしても、オガタはなにを気にしているのかな?と小首を傾げていると「尾形上等兵は劇を見に行って、ひどく不機嫌になっているんです」と教えてくれた。
父様と母様の劇は面白い。
東京にやって来た13歳だった母様のヒモになって、喧嘩屋をしながら町の揉め事を解決して、日本を救ったり、世界を救ったり、色々とブッ飛んでいる。
ノンフィクションっていうやつだね。
「杉元は、乙女だな!」
「乙女じゃないよ、アシリパさん!?」
杉元は、乙女だよ。
「ははあ、不死身の乙女ですなあ?」
「ぐむっ、ぐ…!」
オガタにも乙女扱いされて悔しそうにする杉元に、やっぱり仲良く出来ないのかな?と悩みつつ、私は剣路のほうを見ると刈羽君と睨み合っていた。
こっちもダメみたいだ。