「この小娘が、あの糸色だと?」
「ん、28歳のマダムだよ」
「熟女の定義は四十からだ」
「そうなの?」
「おじさんに聞かないでくれ」
私の事を案内してくれた門倉利運に視線を向けると溜め息を吐かれた。護身用の刀の代わりに持ってきた竹刀は門倉が持っている。
───刹那、小太刀を抜いて私の首を斬ろうとしてきた犬童四郎助の剣撃を小柄で受け止め、ビックリして地面に転んだ門倉に袴を掴まれ、腰帯が解れ、袴が下に落ちる。
「ん、助兵衛爺」
「イテテッ…」
小柄を机に置いて、袴と腰帯を絞め直す。
「成る程、その剣の腕前は本物だ。北海道に居るという話しは聞いていた。何のようだ?」
「不破信二に会いに来た」
「......あの無駄飯食らいかッ」
「まだ無駄飯なの?」
母様のところにも来ていたけど。
不破一族って、いっぱい仕事していた筈なんだけど。どうして、そんなことに?と小首を傾げながら、飛んできた銃弾を避ける。
ん、危ない。
「チッ。これも避けるのかよ」
「犬童、撃つのは危ない」
「え?なに?コバエ?」
「ん、門倉もうるさい」
私の言葉に不思議そうにする門倉に、どことなく母様に似たものを感じるけど。私の母様はこんなに草臥れた感じじゃなかった。
けど、なにか似ている。
「フン。門倉、貴様の考えは分かっているぞ。その小娘と結託し、私のことを蹴落として網走監獄を乗っとり、のっぺらぼうを中央に運ぶつもりなのだろう」
「いえ、そんな大それたことはしていません」
「ん、門倉はバカだから無理」
「初対面だよね?」
「ん、初対面でも分かる。門倉はバカだ」
そう言うと、しょんぼりとする門倉を無視して不破信二のところに案内してもらうことになった。すると、なぜか牢屋の奥が騒がしくなった。
私、人気者?
「......動じんか」
「あ、いた、信二」
「んあ?......なんで、ここにしとりが?」
「ん、迎えに来た」
「ドクトルに聞いてないぞ?」
こっちも不思議そうに首を傾げる。牢屋に近づいた瞬間、腕がいっぱい伸びてきたので飴やチョコを手のひらに置いてみる。
「うんこかこれ?」
「ん、チョコレート」
「高級甘味!!」
「う、うめえ」
きゃっきゃっと喜ぶ不破信二と同じ部屋の人達に「ん、バカな信二と居てくれて、ありがとう」と伝えて、私の持っているお菓子を渡していく。
どうしたんだろうね。
「おじさんにもくれ」
「門倉はちゃんと歯磨きする?」
「するする」
じゃあ、チョコレートをあげよう。
ん、ちゃんと歯磨きするんだよ?