「何年ぶりに着替えたんだ?」
「風呂は週に入らせてるだろ」
「……ばっちい」
スンと顔をしかめて、離れながら信二を見る。父様より年上の筈なのに、全く筋肉が衰えていないどころか更に筋肉の厚みが増しているようにも見える。
やっぱり、筋肉なのかな?
「で、この無駄飯食らいに用ってのは何なんだ」
「母様のお墓参りだよ。信二、十年前に来てから一度もお墓参りにきてないから」
「お前……」
「捕まえたのは門倉だろ」
「そうなの?」
ツカツカと革長靴の底を鳴らして歩く私の近くを歩く信二の背中に視線を向ける。ん、やっぱり母様の背中に見えてたのが少し見える。
刈羽君にも見えるヤツだ。
みんな、何を隠しているのかな?と不思議に思う。けど、そういうものだよね。
しかし、悩むね。
「しとり、左之助は元気か?」
「ん、元気だよ。寂しそうだけど」
「……そうか」
私と信二の話し合いに入れない門倉は少し困ったように帽子を脱いで、頭を撫でた。オガタや杉元みたいだと思ったけど、やっぱり違う。
「おじさんの入れない会話はやめてくれ」
「やだ」
「断るぜ、門倉」
そういうのは言っちゃダメなんだよ。
それに、信二は世界最強だから七百人程度じゃ抑え込めない。銃も剣も効かない。でも、そんな信二と父様は引き分けている。
絶対に負けない。
「まあいいさ。俺はのらりくらりと過ごす」
「じゃあな。門倉。お前も黒幕扱いには気を付けろよ」
「やめろ!怖いだろうが!」
「黒幕?」
あの男が、門倉が、私とひとえの母様と同じように裏から手を回しているの?*1
そんな風には見えないけど。
「覚えとけ、しとり。昼行灯って類いの人間はのらりくらりと真実を隠し、人知れずに事を進める。アイツほど危険なヤツは網走監獄には居ねえのさ」*2
「そう、なんだ」
そういうことなら気を付けよう。
「墓参りだったな。東京か?」
「ん、一緒に帰ろうね」
私の言葉に「懐かしい声だな、やっぱり」と言われ、自分の喉に触れる。私の声は意識していなかったけど、母様に似ているのだろうか。
妖しいと言われたことはないけど。
やっぱり、よく分からない。
けど、母様の声に似ていると言われるのは、とても嬉しい。父様もよく私に呼ばれて懐かしそうにしていたのは、この声のおかげだったんだね。