「ここを通るの?」
「そうだ。狙撃の尾形は木の上に登るが、糸色と剣路、刈羽の三人は杉元達と共にのっぺらぼうの身柄を確保し、可能なら連れ帰ること」
「親父殿、自分は構わないのですが。しとりさんを戦地に押し出すのは流石に…」
「その為のお前と剣路だ」
そう話しながら、そろそろ向こう側に到着するという杉元の言葉に私達は坑道を見下ろす。ただ、やっぱり汚れるのはイヤだと思ってしまう。
「しとり、汚れるのがイヤなら待ってるか?」
「ん、大丈夫だよ。通れる」
剣路にそう言いながら私が穴の中に入り、四つん這いで進んでいると後ろの方から、ドンとお尻に何かがぶつかるような感覚に襲われた。
「けんちゃんのエッチ」
「他のヤツが行くより先に来ただけだ」
私のお尻に顔を押し付けながら、そんなことを言う剣路に「ばか」「変態」「すけべ」と文句を言いつつ、坑道を抜けると門倉がいた。
「ん、やっぱり門倉がいた」
「マジで来たのか」
「よう。門倉、仕返しに来たぜ」
「不破もかよぉ」
すごくショックを受ける門倉に「大丈夫だよ。信二は強いヤツが好きだから」と言うと「じゃあ、おじさんは弱いから大丈夫だな」と言った。
ん、それは門倉の本気次第だね。
───とは言えだけど。
「門倉、何を企んでるの?」
「何も企んでねえよ。俺は親父が土方さんに付いたから、侍として付いていこうと思っただけだ」
「ん、妖しい。ウソの臭いが分からないのは母様以外にいなかったのに*1、やっぱり門倉は只者じゃないね」
「いやー、おじさんは只者だよ」
私の言葉を直ぐに否定した門倉の実力を試そうとした杉元の銃剣の柄頭に門倉の手が重なり、門倉の咥えていた爪楊枝が杉元の喉元に当たっていた。
「っと、悪い悪い」
足が縺れたように振るまい、杉元の間合いを潰し、銃剣と左腕を押さえて、爪楊枝を喉に突き刺す寸前に、杉元の事を追い込んでいた。
「……とんだタヌキ親父だな」
「ワルグチだぞ、それ」
「しとり、見えたか?」
「ん、膝折や鳩尾に打撃を加えれば杉元を完全に抑え込めていた。自分の強さを隠すために、わざとそんなことをするなんて門倉は妖しい」
「誤解なんだがな…」
ウソに決まっている。
私でも見るのが遅れる動きだった。あんなことが出来るのは、本当に強い人だけ。謙遜しすぎるのは悪いことだよ。