アシリパ達と分かれて、私は教えて貰った木々の間を通って、ススハムの暮らすアイヌのコタンに入ろうとした瞬間、足元に矢が飛んできた。
「ん、危ない」
刺さる前に矢の柄を握って受け止める。
毒矢。
アシリパの使っていたヤツと臭いは同じだなと考えながら、矢を置いてススハムの名前を呼んでコタンの中を歩いていると、私の目の前を荒々しく突っ切るように突風が巻き起こる。
「アタシの名前を大声で呼ぶんじゃない。で、どちら……しとり?」
「ん、母様のお葬式以来だね。相楽しとり、母様の代わりに遊びに来たから持て成していいよ」
「その口癖と顔立ちを見るからにしとりね。良いわ、此処に来たのなら相手してあげる。……もう、『ゴールデンカムイ』の時代なのね。景……」
小さな声で何かを呟くススハムに小首を傾げながら、ススハムの家に案内され、囲炉裏の近くに座り、私は母様の借りていたマタンプシ(アイヌの鉢巻き)を差し出す。
───すると、ススハムは懐かしそうにマタンプシの模様をなぞり、また不機嫌そうな目付きにもどってしまった。
ん、残念。
「しとり、悪いことは言わない。用が済んだならさっさと帰ることを勧めるわ。景と同じで貴女は無茶をするタイプ。それも、なまじっか強さもあるから引き際がかなり後になる」
「刺青人皮の事?」
「…………はああああっ、十年も経ったから忘れてたわ。糸色家の人間はバカみたいに騒動に巻き込まれやすい。安居院も無事だと良いんだけどね」
なんで、紗梛の名前が出るんだろう。
「刀は持ってきたの?」
「あるよ。母様が爪に刻んでくれた」
そう言って右手の爪を見せる。
陰陽十干の妖刀達。
私、糸色しとりは母様と姿叔父様の代わりに糸色家を継ぐときに妖怪や幽霊に対抗する手段として、妖刀を選んだ。父様の蛮竜も使えるけど。
アレは私の次の子が受け継ぐ。
二重の極みもその子が父様から受け継ぐ。
「シンナキサラ」
「ん?私の事?」
「アイヌ語で変な耳だってさ」
「私は変な耳じゃないよ。緋村しとりだよ」
「シトゥリ?」
「ん、しとり」
「ウナハペ、シトゥリだって!」
「イントネーションの違いね。まあ、良い言葉ではあるから安心して呼ばれなさい」
いん?と小首を傾げつつも、シトゥリと呼ばれるのは懐かしく感じる。ん、そうだ。昔、ススハムの子供のムカルに呼ばれてた気がする。
「ススハム、ムカルは?」
「あの馬鹿は戦争に行ったわよ。友達が行くならオレも行くって馬鹿なんだから…」
その友達というのは、剣路だろう。
二人は仲良しだったから知っている。
「今日は泊まって行きなさい。親友の娘を野宿させるなんてしないわよ」
「ん、ありがとう」
お風呂、ある?
あ、無いんだ……母様の発明品に頼ろう。