七百人居た筈の囚人も百人以上はいた第七師団もかなり減ったというのに、全く鶴見に届いていない事実に溜め息を吐きつつ、血を吸って刀身の潤った似蛭を鞘に納めて、ゆっくりと目の前を見据える。
「ようやく会えたね。糸色君」
「ん、私は会いたくなかったよ。鶴見」
「左右の牢屋に飛び込めば蜂の巣。後ろは壁、天窓には届かない。君にはもう逃げ場は存在していない。大人しく私の元へ来て貰おうか」
「母様が言っていたけど。世界は自分を中心に回っている。そう思った方が楽しいらしいよ。だから、私はこの運命を信じる。」
「総員、射撃始めェ!」
「来なさい、白也!」
鶴見の言葉を合図に歩兵銃も機関銃も撃ち始める第七師団よりも素早く私の背後の壁を粉砕し、2メートルを越える巨体を盾に佇んだ男の背中を見つめる。
「剣客兵器『異號』凍座白也、推参!!」
「剣客兵器、二十年前の亡霊が化けて出たか!」
「カカカッ!儂が亡霊ならばお主らは死に場所を求める亡者よ!見える!見えるぞ!鉢金の男よ、貴様の闘姿は正しく『人を食む餓者髑髏』よのォ!!」
そう言うと白也は手のひらに溜めた血を凝固させ、礫として放つと同時に踏み出し、迫り来る第七師団の兵隊を殴り、踏みつけ、投げ飛ばす。
「ウワッハッハッハッハッ!!やはり糸色家に付くと決めて正解じゃったのう!斯様な兵共と渡り合えるなど早々に有り得ん!!」
「ん、派手に暴れて良いよ」
「委細承知!!」
暴れまわる白也を背に私は外へと走り出し、アシリパと杉元達の事を探していたとき、顔の無い男と話している杉元が見えた。
「すぎも────危ない!!」
二人を押し退けた刹那、私の右手に銃弾が当たり、ボタボタと血が滴り、手のひらに風穴が空く。
「しとりさん!?」
「影に下がって!(今の狙撃、オガタの居た場所からだ……ッ、インカラマッが言ってくれたのに、杉元達を助けるときに油断した)」
ズキズキと痛む右手に包帯を巻き付け、直ぐに逃げる場所を探すために、私の石ころ帽子をのっぺらぼうに被せ、逃げるように伝える。
「(……ッ、右手が握れない)」
杉元達と分かれて、またゆっくりと移動している最中、剣路と刈羽君の二人が、血を流しながら斬り合っているところが見えた。
「なに、してるの?」
「しとり?!」「しとりさん!?」
私の言葉に気づいた剣路は刀を捨ててまで駆け寄ってくれたけど。私の右手を見た瞬間、血の気が引いたように真っ青になっていた。
「その手、だれに?」
「……多分、オガタに撃たれた。ごめんね、けんちゃん。私、もう刀が触れないかもしれない」
「まだ、医者に行けば!!」
むりだよ、右手が握れないんだよ……。
「クソオガタアァァァァ!!!出てこい!ブッ殺してやる!!殺すっ!!!壊してやる!!!てめぇの大事なモン全部だッ、全部ッてめぇの目の前でブッ壊してやる!!!」
けんちゃんの叫びが、耳に残り続ける。