目を覚ますと病室にいた。スンと鼻を鳴らすと鶴見や第七師団の臭いはしないから、別の場所に居るのだろうと思いながら右手を動かす。
右腕は動く。
ただ、手のひらを撃ち抜かれたときに神経を損傷してしまったのか。指を握ることが出来ない。感覚は辛うじて、残っているけど。
刀を握るのは、もう無理だ。
「しとり、目が覚めたのか!」
「……ん、おはよう。けんちゃん」
ゆっくりと布団を押し退け、上半身を起こすと傷だらけで顔色の悪い剣路が私の事を抱き締めてきた。なんで、刈羽君と戦っていたのかはわからないけど。
「右手、どうだ?」
「……刀はもう握れない。今ならけんちゃんに何も抵抗できないし、好きに出来るよ?」
「ッ、そういう冗談は好きじゃねえッ!」
「……ん、ごめんね」
なんとか練習すればお箸を握ることは出来るようになるかな?と考えつつ、ベッドの近くに立て掛けられた電光丸に左手で触れ、柄に右手を添える。
「(握れ、握って…!)」
そう願っていると、微かに指先は動いた。
でも、やっぱり剣士としての私は死んだ。
「しとり、ひとえのときに帰れ。金塊の事もおばさんのやり残した事もオレが代わりにやる」
「……フフ、けんちゃんは私より弱いのに?」
いつものようにそう言った瞬間、剣路が刀を抜き放つ。私も抜こうとしたその時、右手に力が入らないことを思い出し、顔を真横から殴られた。
ベッドを壊しながら、私は床に倒れる。
「今は、お前の方が弱いんだ。刀も振れないしとりが、銃弾やら砲撃やらを使う馬鹿共を相手に戦えるわけがない!」
「………………私は負けてない」
「ダメだ」
「なら、私の手足を切ればいい。そうすれば私は剣路の言うように素直に東京にだって帰るよ」
口許の血を手首で拭い、剣路の目の前に立つ。目の奥に後悔の念を滲ませる剣路の手が、私の事を抱き締め、静かに啜り泣く音だけが聞こえる。
「ごめん、近くに居たのにしとりが怪我するかも知れないって聞いていたのに、オレは何も出来なかった。オレは、最低な男だ、ごめん、ごめんなッ、お前の大好きなものを奪っちまった…!」
「ん、ごめんね」
私のお腹に縋るように抱きつき、嘆く剣路の頭を優しく撫でてあげる。刀を振るうのは、もう無理だと嘆く事は簡単だけど。
私は相楽で糸色景で緋村だ。
左手でも刀を振ってみせる。
「けんちゃん、私は強いんだよ。右手が使えないなら左手で刀を使えるようになる。……もしくは、ひとえに手を治してもらうかだね」
でも、時間が経ちすぎている。
治るのかは五分かな。