「ねえ様、その手…!?」
「ん、撃たれた。治せる?」
網走を離れて、カバンの中に仕舞っていた「どこでもドア」を使って小樽の糸色家に戻ると私の右手を見るなり、ものすごく顔色を悪くしたひとえを受け止める。
ごめんね、産後に押し寄せて。
ゆっくりと包帯を外し、風穴の空いた右手を見つめるひとえは目尻に涙を溜めて、私の事を睨むと「無茶しないって約束したのに」と怒ってきた。
ん、それは謝る。ごめんなさい。
淡く蛍火色に光る両手に照らされた右手の傷は少しずつ治り、二時間も経てば風穴は完全に無くなったけど。握力は戻っていないし、指も動かない。
「ありがとう。ひーちゃんのおかげ、刀は振れないけど。これならお箸は持てる」
「ねえ様、氷魔閻は?」
「アレは左手……なるほど」
私とひとえの話を聞いていた剣路は首を傾げる。魔導具に関する事は秘匿しているし、母様の娘である私とひとえだけしか封印を解けない。
「けど、私は火だよ?」
「あい。だから、使える」
そう言われて納得するけど。
もう一つだけ手段は残っている。
紅桜。
私の持つ妖刀の中で身体と結び付いて振るえるようになるのは、その一振りだけ。紅桜を抜けば私は右手で刀を振るうことは出来る。
────だけど。紅桜は血肉を喰らう。
そうなったら止める手段はない。
「……剣路、杉元達は?」
「逃げるときに第七師団に捕まっていた。おそらく拷問を受けているんだろうが、今は動くなよ。怪我した上に刀を振るえないんだ。慣らしはいる」
その言葉にひとえも頷いた。
「白也は?」
「アイツは不破と合流して駆逐艦に飛び込んで大暴れするだけ大暴れして帰ったよ。砲弾を受けて、なんで死なないんだ?」
修羅と鬼なら当たり前だよ、けんちゃん。
「ねえ様、にいさま、お話しするのは良いけど。4ヶ月も子供と離れていたんだから、お話ししないとダメだよ?」
「ん、分かってるよ。ありがとう」
よしよしとひとえの頭を左手で撫でてあげ、此方の倉に仕舞っている氷魔閻を取り出す覚悟を決める。飛天御剣流はもう使えないけど。
氷魔閻は使える。
加減して使えば人は、死なない。
ダカラね。
「…ねえ様、後悔していない?」
「後悔なんてしないよ。だって私は父様と母様の娘で、ひとえのお姉ちゃんで、あの子達のお母さんだからね。悔いるなんて選択肢は存在していないんだよ」
そう言って私は目を閉じて、庭先の倉を見る。
普段は見えないけど、私とひとえの母様譲りの目はその倉を見ることが出来る。