埠頭地帯の倉庫に新たな
その様子は本部にモニタリングされており、誰もが緊張感を走らせている。
だがただ一人、弦十郎だけが歯を食いしばっている。
(なんて事だ……!あのは生きていた……!生きていたんだ……!)
死亡とされていた織田の姉妹、その姉の方が生きていた。本来であれば、それは喜ばしい事だった。だが今の弦十郎の顔にはそのようなものを感じさせない。むしろその逆のものだ。
(だとしたら……何故Z.E.U.S.なんかに……?!何故俺達の前に……君が立ちはだかる事になってしまったんだ?!)
何故死者として扱われたのか。何故ギリシャの諜報機関に身を置き、非合法活動に手を染めてしまっているのか。分からない事が多いが、ここで知る事は出来ない。
少なくとも、舞華は翼達を殺すつもりでグラデアメイルを身に纏っている。悔しさを押し殺し、現場は翼達に託すしかなかった。
〇〇
妖刀村正のグラデアメイルを纏った舞華。殆どのグラデアメイルが西洋のものに対し、こちらは大和撫子を連想させる装いとなっている。
「随分と待たされたの。そろそろ良いわよね?」
「構わない。君の刀で奴らを討ち取れ」
「了解」
日本に来てからも切り札として温存されて抑圧されていたが、
「さあ、私を殺せるかしら?遠慮なくかかって来なさい」
微笑みながら黒い妖刀を構えた。そこから醸し出される威圧感は、同じ刀使いの翼を反射的に構えさせた。
舞華が走り出した。間合いに入ったと同時に絶刀と妖刀の刃がぶつかり合う。一合交えただけで周囲に衝撃波を生み出している。
どちらも怯むことなく二撃三撃目も繰り出す。だが四撃目で翼が防御に回る形となる。
(動作に無駄のない正確な太刀筋……!だが目視以上に、一撃が重い……!)
舞華の斬撃は余計な力を入れずに最低限の動作で繰り出されている。これにより次の攻撃へ移るタイムラグを減らすのみならず、パワーも落とさずに繰り出せる。
この一瞬で、翼は舞華の強さを悟った。
(このまま打ち合っては、こちらが……)
だがその刹那、翼の腹部に鈍い痛みが襲った。
(蹴り……だと……?!)
横腹を蹴られたと認識した時には壁際まで飛ばされていた。
「センパイ!」
「余所見してる場合?」
再び蹴飛ばした瓦礫に防御が間に合わなかったクリスも吹き飛ばされた。
「よくも翼さんとクリス先輩を!」
「絶対許さないデス!」
「待って二人とも!」
響の制止を振り切った調と切歌が舞華に奇襲を掛ける。投擲された無数の小型の鋸と碧刃で舞華を囲う。だが舞華は妖刀を逆手に持ち替え、全方向に禍々しい妖気の斬撃を放出するように舞う。
【紅桜】
ザババの斬撃を全て斬り落としたのみならず、周囲に滞空している妖気の斬撃が一斉に放たれ、守りの守りの体勢に入っていた調と切歌を諸共に吹き飛ばした。
「「ああああああぁぁっ!!」」
「調ちゃん!切歌ちゃん!」
「次はあなた達よ!」
妖刀を袈裟斬りの要領で振り下ろし、妖気の斬撃を放つ。
【封臨華斬】
標的となった響だが、白刃取りで防いだ。が、止められようとも斬撃は生きているかのように、響を斬らんと迫る。
「う……ぅっ……くぅぅ……!」
「響!」
後ろには未来がいる。ここで自分が斬られれば未来も斬られてしまう。
「死んで……たまるかああぁぁ!!」
踏みとどまって斬撃を上空に投げた。斬撃は屋根を穿ち抜いて消滅する。だが気を緩む暇などない。今度は鉄骨を蹴り飛ばしてきた。
「てぇい!」
手刀で鉄骨を叩き折った刹那、第二撃として飛んで来たコンクリートの破片を、神獣鏡の光線で塵にする。さらに光線を連射するが、舞華は軽く避ける。
「神獣鏡は厄介ね。なら……」
指を鳴らすと、未来とクリスの周囲にアイスノイズを召喚。前衛の響と完全に分断する。
「未来!クリスちゃん!」
孤立してしまった響を狩るべく、間合いを詰めた舞華の妖刀が振り下ろされる。辛うじて手の甲で払い、掌底を繰り出すも、刃で完全に止められる。
「その程度の拳じゃあ……押しきれないわよ」
(身体が重い……さっきから、思うように動かない……)
響の身体が既に限界を迎えていた。鉛のように重く、振り抜いた拳が弱くなっている。
「響!」
「あのバカが早くもスタミナ切れになる玉か?!」
アイスノイズに囲まれている未来とクリスも、響の身体に異変が起きている事を察知した。だがこうも多数に囲まれては援護も出来ない。
「ふぅん!」
すると紫炎を纏ったローリングソバットが不意に響の胴体に繰り出した。響は防御しようとしたが、間に合わず、壁に叩き込まれた。
「響……きゃあぁっ!」
さらに響がやられて気を取られてしまった未来が狼狽えてしまった所に、蹴り飛ばされた鉄骨が直撃して倒された。
「よくも!」
そこに立ち上がったクリスが舞華に向けてクロスボウの矢を乱射する。だがそれを分かっていたかのように、斬撃を素早く繰り出して全弾斬り落とした。
「どうなってやがんだ?!」
バリアでもなければ盾で防ぐわけでもない。ただ剣だけで矢を全て叩き折るなど非常識が過ぎる。
こうなれば非常識には非常識。小型ミサイルの一斉掃射と二基の大型ミサイルを発射させる。
【MEGA DETH FUGA】
だが舞華は驚く素振りすらない。そればかりかひらりと身を翻し、ミサイルを蹴り上げた。さらにもう一本もローリングソバットで蹴り飛ばした。
「次から次へとデタラメを……っ!」
次弾を展開しようとしたが、舞華の刃に禍々しい闇の炎が燃え盛っていた。その勢いと気迫に圧倒されてしまう。
「いい弾幕ね。でも……」
次の瞬間、舞華の妖刀を握る力が強くなり……
「いい加減、鬱陶しいわ!」
振り下ろすと地面から紫炎が噴き上がり、避けきれなかったクリスが吹き飛ばされ、床に叩きつけられた。
【地獄門】
「あ〜あ。この調子じゃ舞華先輩が全部やっちゃいそうですね♪」
「にしてもS.O.N.G.の装者可哀想。たった一人にここまでやられちゃうんだから……」
影風が退屈そう眺める中、もはや戦いとは呼び難い一方的な蹂躙に萌芽が同情する。
「そうやって……余裕でいられるのも今のうちだ!」
立ち上がった翼が舞華に小刀を投擲。すぐに弾かれるも、そのまま駆け出して刀を振り下ろす。だがそれも妖刀の刃に阻まれる。
「ほう。そんな状態でもまだ戦えるなんて、意外だったわ」
腹に一撃が入ってもなお立ち上がり、一撃を仕掛ける翼に感心する。
「侮るな……!これしきの痛みで我が刃、折れはしない!」
「それにしてはもう限界そうだけど?」
舞華の蹴りの一撃は重いものだった。そのダメージが残っていて押し切れない。それを見抜かれている。
図星と共に一瞬の隙を突かれ、刀を弾かれてしまった。
「しまっ……がぁっ!」
腹に蹴りが入り、そのまま天井まで打ち上げられた。
「さようなら」
再び妖刀に闇の瘴気が逆巻く。それを宙に飛ばされている翼に向けて、それも三回連続で振り抜いた。
【封臨華斬 三連】
闇の斬撃が翼の目前まで迫り、爆発を引き起こした。紫色の爆風が倉庫内に立ち込める。
「呆気ない幕切れだったわね……」
勝負は着いた。いや、そもそも勝負すら言えない、一方的な蹂躙だった。
だが結はこの呆気なさに違和感を察知した。
「待て舞華。笑うにはまだ早いぞ」
「え?」
そう言われて爆煙の方に向き直る。やがて晴れゆく煙の隙間から、黄金の輝きを発しているのが見えた。
「あれは……」
「アマルガム!」
妖気の斬撃が届く寸前。翼がギアをアマルガム・コクーンへと変形。舞華の攻撃から無傷で凌いだ。
翼の無事を確認した響達が歓喜の笑みを浮かべた。
「言ったはずだ。我が剣、容易く折れはせぬと!」
手の甲に象られた黄金の花を展開。黄金の七支刀を形成、刃に纏った蒼炎が唸り猛る。
「ならその刃諸共、粉々にするまで!」
舞華もその意気に応えんと妖刀の刃に纏った闇の瘴気が、禍々しさを増大させた。
蒼炎と紫炎。二つの炎が相対する。
〇〇
同じ頃、マフィアと商品の取引をしようとしていた黒ずくめの商人は、幸いにもアイスノイズの襲撃から逃げ延びている。
だがZ.E.U.S.に顔を見られており、見つかれば死は免れない。こうなった以上、生き延びるには一刻も早く安全な場所へと逃げるしか方法はない。
至る所にアイスノイズが蔓延っており、商人を抹殺するべく周囲の建造物を破壊して探している。
「こっちだ」
その時、声と共に裏口の扉の扉が開いた。導かれるように裏口に入ってアイスノイズから身を隠す。
「あれがZ.E.U.S.。俺を殺す為にあそこまでやるのかよ」
「そういう事だ」
「それより、お前は誰だ?」
声の主。銀髪の青年が飄々とした態度で商人を見ている。
「そう警戒するなよ。俺はアンタを助けに来たんだ」
そう言って名刺を渡した。
「CIA……?!お前まさか……」
「落ち着きなって。殺したりしないよ。むしろその逆。助けに来た」
青年の意図が読めないでいた商人だが、それよりもアイスノイズが近づいている。
「ここに抜け道がある。来い」
床に隠された扉を開いた。そこは地下に繋がっている。アイスノイズが迫る今、選択の余地はない。青年に従って地下通路へと入った。
タブレットのライトを頼りに二人は進む。
「にしても、Z.E.U.S.に気取られるとはな。今回の取引安易だったんじゃないのか?」
「気取られないようダークウェブを使って、ハッキング対策のセキュリティだって……」
「そんなもん、見られたくないものがあるって自分から教えてるものだろ?」
厳重にすればする程、余計に怪しく目立ってしまう。痛い所を突かれた商人はため息を吐くしかなかった。
「で、何を取引するつもりだったんだ?」
「複製聖遺物だ。欲しがってる裏組織なんざいくらでもいるからな。お陰でいい金になる」
「小遣い稼ぎかよ。けどもうその事業から手を引いた方が良さそうだ。あんなのが相手じゃ、いくら金があっても逃げ切れねえ」
商人の浅はかな目的を知って呆れてしまう。
「出口を出たら車に乗る。それでここから逃げるぞ」
「おう」
逃げる打ち合わせをしていた途中で、出口に着いてしまった。青年がゆっくり隠し扉を開けて周囲を警戒する。
「いないな」
安全を確認した青年が階段を上がって地上に出た。
「よし、上がって来い」
「ああ。助か……うぅっ!」
階段に足を乗せようとした時、商人の首に打ち込まれた。
「な、何だこれ……注射器……?」
首に刺さった小型注射器を抜いた。中身をよく見てみると青色の液体の跡がこべりついている。
「な、何を……し……」
問いかけようとしたが意識が刈り取られてしまい、階段から転がり落ちた。
結んでいた髪を下ろすと、長い髪が青年の背中で揺れる。
「チョロいな。まあ、あんななりじゃ男の子と思われても仕方ないかな」
途端に鋭かった顔つきが明るい雰囲気に変わり、声色も女性特有の高さに戻る。そして、黒いスーツを脱ぎ捨て、水色のジャケットに灰色のスカートという可愛らしい女性の姿に変身した。
「こちら星羅。対象者確保。これから拠点に行くよ」
性別ごと姿を偽っていたZ.E.U.S.の七星魔剣の一人、
「残念だったねS.O.N.G.の皆。今回は私達の勝ち。じゃあね〜」
まだ倉庫で戦っているであろうS.O.N.G.の装者達に届かない勝利宣言を口にしながら運転席に乗り込んだ。