アマルガムを纏った翼と村正の使い手舞華の一騎討ちが開始される。黄金の刃と漆黒の刃がぶつかり合うと、周囲の瓦礫を吹き飛ばす程の衝撃が発生する。
アマルガム・イマージュとなった翼のアームドギアは高い出力を引き出している。
間合いの外で蒼炎を纏った斬撃を繰り出すも、妖気の斬撃が相殺。そして刃の打ち合いも互いに引けを取らない。
(渡り合えている……!これならば……!)
最初は舞華に手も足も出なかった。だがアマルガムならば渡り合える。苦しむ響を一刻も早く助ける為にも、早期決着しかない。
「防人の覚悟、先人達の遺志、そして皆と共に歩み高めた剣を見せてやる!」
翼が剣を構え直すと、側面に枝分かれするように刃が展開。それを片側に移した片翼状となった刃に蒼炎を纏う。
【気炎ノ蒼剣】
対する舞華は左掌に妖気を纏い、それを鞘にするように妖刀を納める。
「はあああぁぁ!!」
力強く振り下ろされた蒼炎の剣が舞華に迫る。その寸前、右足の踏み込みと同時に素早く接近しながら抜刀。禍々しい妖気が大炎となった妖刀となって振り抜いた。
ガキィン!という一閃の剣戟と共に叩き折った剣諸共、翼を宙に吹き飛ばした。
【神滅天獄刃】
「うああああああぁぁぁ!!」
紫炎によって身を焼かれるような苦痛が翼を襲った。翼の身体が地面に叩きつけられたと同時に、折れた剣が地面に刺さった。
「センパイ!」
「翼さん!」
翼がやられるという衝撃的な光景を見せられ、動揺が伝染的に広がる。だがそれが戦闘中では致命的な隙を生む。
「隙あり!」
「「ああぁっ!」」
翼がやられ、動揺した事で無防備になっていた切歌と調が虚空に放った拳圧によって倒されてしまった。
「お前ら!」
「はあぁっ!」
萌芽の大剣を振り回して放った爆炎がクリスに襲い掛かる。あまりの威力に踏ん張りきれずに壁に背中を強く打ってしまう。
響がやられた事で発生した士気の低下は、翼がやられた事でより大きく影響する結果になった。
残った未来だが、萌芽と影風は寒さに苦しむ響を見て、未来は戦闘続行不可能と判断して攻撃せずに舞華に倒された翼の方を見る。
「何故だ……何故剣が……!」
「言ったはずよ。あなたの刃は軽い。アマルガムでどうにか互角に持ち込んでいた……なんて思い上がっていたみたいだけど、残念だったわね」
倒れ伏している翼に切っ先を向けて見下ろす舞華。
これ程の屈辱味わったのはいつ以来か。その無念は翼の顔に滲み出ている。
「風鳴翼、あなたには力への渇望がない。そしてあなたは、いざって時に人を斬る覚悟がない」
「そのような事は……!私は仲間を……人々を守る為に……幼き時よりこの身を剣として……」
「違う違う。人を斬るという事は……人を殺すという事よ」
まるで翼の在り方そのものを否定するかのように、冷たい声を発する舞華。赤い眼もまるで有象無象を見るかのような。
「私も小さい頃から自分を鍛えてきた。強くなれば、家族に恥じない立派な娘になれると信じて。だけど……」
不意に悲哀が赤い瞳に宿り、妖刀を握る手の力が強くなった。途端に切っ先を下ろしては翼に背中を向けた。
「それにしてもガッカリだわ。あの風鳴翼が、こんな鈍だったなんて」
心底呆れるように溜息を吐いた。態々背を向けながらこれでもかと翼を煽る。
いくら大きなダメージを負っているとはいえ、ここで一矢報いる事は出来る。だが背後からの不意討ちなど、それは戦士として恥ずべき行為。
「それも防人の矜恃、ってやつかしら?ふふふ……」
振り返って再び翼を見下ろす。
「無価値」
冷たく言い放ち。妖気を纏わせた刃を徐に振り上げた。
「ん?」
だが振り下ろす前に、頭上から襲い掛かる者に気付いた。
「天羽奏……!」
「おらぁっ!」
突き出された槍の穂先を妖刀の刃で受け流した。
「あなたがここにいるって事は、外のアイスノイズは全て倒されたようね」
「形は違っても所詮ノイズだ。今更負けるかよ。それより……よくも翼を、仲間をやりやがったな!」
奏が振るう槍を弾く。相棒や仲間をやられた怒りを乗せるように、苛烈に攻め立てる。
「適合係数が低いお薬頼みって聞いてたけど、思ってたより強いじゃない」
「黙れ!みんなの分、まとめて返してやるよ!」
奏の猛攻を涼しい顔でいなす舞華。例え適合係数の低い装者であっても、敵を必ず倒すというその執念によって出力の差を埋めている。これには舞華も敬意を評する。
(そう……。存分にかかって来なさい。あなた達が必死になって戦えば戦う程、こちらの思惑通りに事が進む……)
S.O.N.G.はまだ知る由もない。七星魔剣の本当の企みを。
〇〇
黒いバンを運転して埠頭から離脱している星羅。トランクの中にはマフィアに複製聖遺物を密売しようとしていた商人を拘束している。
このままフィーネの館まで運び入れれば、星羅の任務は完了となる。シンフォギア装者は舞華達が引き付けているので彼女達に追跡される心配はない。
だがS.O.N.G.本部が自分の存在に勘づいている可能性は十分ある。このまま館に戻っても位置を特定される危険がある以上、一旦車両を入れ替える必要がある。
目的地に向かう途中で街中の十字路に差しかかろうとした時、直近の赤信号が灯る。一旦ブレーキペダルを踏んで、停止線直前で停まった。
だがまさにその時、フロントミラーに映る黒い車両が接近。そのスピードも規定の速度を上回っている。ミラーを介して運転席を確認すると、S.O.N.G.のエージェントである緒川を発見する。
「思ってたより早かったなぁ。けど、相手にしてらんない!」
アクセルを強く踏んで発車。赤信号を強引に突っ切った。それに驚いた青信号の車が急ブレーキを踏んだ事で後続の車両が玉突き事故を起こした。
「Z.E.U.S.め……過激な事をしてくれるな」
「これでは追跡は難しそうですね」
バンを追跡したい緒川だが、流石に国連のタスクフォースが信号無視するわけにはいかない。どうしたものかとアトラスが周囲を見渡すと、あるものが目に留まる。
「すまない緒川殿!ここからは僕が!」
「アトラスさん?!」
緒川の制止を振り切って車から勢い良く降り、道端に停まっているバイクに跨って発車する。
何とか追跡を振り切った星羅。死者が出ないように工夫をこらすも事故を起こさせたのは不本意だったが、これも追跡を振り切る為と割り切って目的地まで車を走らせる。
「ん?」
不意にチラリとフロントミラーに視線を向けた時、バイクで追ってくるアトラスを見て唖然とした。
「もう!せっかく撒いたと思ったのに……!仕方ない。みんな!やっちゃって!」
指をパチンと鳴らし、車が通った軌跡にアイスノイズの群れが姿を現す。星羅の命令に従い、こちらに迫る敵を捉えて襲い掛かる。
「ケリュケイオン!」
黄金の錫杖を掲げ、放たれた光を浴びたアイスノイズが跡形も残らず消えた。
「
ケリュケイオンの複製聖遺物を目にした星羅が再び驚愕する。
阻む雑兵がいなくなり、今度は腰のホルスターから拳銃を出してすぐさま三連射。全弾命中するが、ガラスや車体に傷らしい傷がつけられていない。
「やはり防弾ガラス……はっ……!」
突如車体に通気孔が拡張されたマフラーが新たに展開。エンジンを大きく吹かすと、スピードが急速に上昇。あっという間に距離を離され、見えなくなってしまった。
「こうなってはもう追えないか……。けど、何とか一矢は報いたはずだ」
一般市民が使用するバイクでは改造車に到底追いつく事は出来ない。これ以上の追跡を断念し、緒川の所へと戻った。
〇〇
「ごめんなさい……ソフィさん」
響達が戦っている倉庫から離れた湾岸部にて繰り広げていた愛亜との戦いは、セレナ達の勝利で確定した。セレナが手にしているミレニアムパズルの中に、愛亜を封印している。威力は抑えたので致命傷にはならないが、ここまでの大技を受けては戦闘の継続は不可能だろう。
そんな状態に追い込んでしまったセレナは心を痛めていた。それを察していたマリアがセレナの頭を撫でてあげる。
「あなたのお陰で、ソフィを止められた。今の私じゃ、どうする事も出来なかった。ありがとうセレナ」
この戦いでストームブリンガーの起動に必要な条件を満たせずにいたのを、セレナが代わってやってくれた。
セレナは守られるだけではない。誰かを守れる強い戦士に成長した。姉としてこんなに誇らしい事はない。
「セレナ、ソフィを出してもらっていい?」
「うん。良いよねヴェイグさん?」
『セレナがそう望むなら』
箱がセレナの意思に応えるように浮き、床に安置される。それが光となって人の形に変わり、座って項垂れている愛亜の姿になった。
多大なダメージでグラデアメイルが維持出来なかったのか強制的に解除されたようで、黒ずくめの姿に戻っている。
「ぅ……」
愛亜の顔が徐に上がる。だがマリアとセレナの顔を認識するとそっぽ向いてしまう。
「笑いに来たのか……?」
「そんな悪趣味な事はしないわ。以前のあなたはもっと素直だったのに」
意地っ張りな愛亜に呆れるマリア。ため息を吐いて、改めて言いたいことを口にする。
「ソフィ……あなたに何があったのかは分からない。けど、これ以上手を汚すのはもうやめなさい。」
「お前達に何が分かる……」
マリアの説得を震える声で遮った。間もなくマリアの方を向いたその時、ほんの僅かにマリアの瞳が揺れ動いた。
「光の下を歩くお前に……闇の中でしか生きられない俺達の気持ちが、一体何が分かると言うんだ!!」
愛亜の荒らげた声の中に深い悲しみに尋常ではない怒り。それを前にしてなんて言えばいいのか、その答えを、姉妹どちらにも持ち合わせていない。
「俺を……あの一撃で殺さなかった事……易々と解放した事……必ず後悔するぞ……」
「殺せるわけないでしょう?私達は今でも、あなたの事を友達だと思ってるわ」
そう言うと手錠を出す。これ以上愛亜に罪を重ねさせない為にここで拘束する。だがそれを見せられても愛亜は表情一つ変えていない。まだ負けたとは思っていないようだ。
ただ意地を張っているのか。だがもし、そうでないのならば?
「だからお前達は負けるんだよ」
考えを巡らせていたマリアに、愛亜が不意に口にした。
「それはどういう……っ!」
その時、マリアの脳裏にある存在が蘇った。だが……
ズドォンッ!!
夜空に突然響いた轟音。全身を焼かれるような痛み。崩れるように倒れる身体。
「マリア姉さん!!」
目の前でマリアが倒れ、悲痛な叫びをあげるセレナ。泣きそうな顔で駆け寄った。
(私……撃たれたの……?身体が……動けない……)
全身が麻痺しているかのように身体が動かせない。シンフォギアを纏っていてこのダメージを負うなど、普通の銃撃ではない。
(くっ……ここに来て、狙撃手が来るなんて……!)
パヴァリア光明結社残党が次々と殺害された時にあった狙撃手。自身の存在を悟らせず、正確に標的を狙撃をしていた。
あれから愛亜などの七星魔剣との戦いが激化していたが故に、狙撃手を見落とすという致命的なミスを犯してしまっていた。
しかもこの埠頭はいくつもの建物で入り組んでいる。身を潜めて狙撃するには絶好の
「に……逃げてセレナ……!」
「で、でも……それじゃあ姉さんを……」
セレナだけでも逃がそう促すが、当の本人は目の前で撃たれたショックで気が動転してしまっている。そして、負傷したマリアを置いて逃げるなどセレナには出来ない。だがここに凄腕の狙撃手がいるとなるとセレナの身も危ない。
「姉さんを置いて逃げるなんて出来ない……!」
「駄目よ……!ここにいたらあなたも……」
「でも……」
だがマリアの説得も虚しく二発目の銃声が響いた。被弾したセレナも倒され、ギアが解除されてしまった。
「セレナ……!」
「だから言ったはずだ。後悔すると」
見上げると愛亜が見下ろしていた。しかもその肩には意識を失っているセレナを担いでいる。
「ソフィ……あなた……」
愛亜の背後からバイクのエンジンの音が近づいてきた。すぐ近くまで迫るとバイクを止めて降りて来た。
「良くやった愛亜」
ラハブのグラデアメイルを纏っている結が、マリアの視界に入る。会話の様子から最初からセレナが目的だったと察した。
「セレナを……どうするつもりなの……?!」
「計画に必要なのでな。彼女は貰っていく」
セレナを担いだ愛亜をサイドカーに乗せて、結はバイクに乗り込む。
「待って……!セレナを返して……!」
マリアが手を伸ばすが、二人が聞き入れるわけもない。結がアクセルハンドルを捻り、バイクを走らせた。
「セレ……ナ……!」
遠ざかるバイクと攫われたセレナを見ている事しか出来ない。一人残されたマリアの意識が途切れてしまった。
〇〇
同じ頃、倉庫では奏と舞華の激しい白兵戦を繰り広げていた。撃槍と妖刀の剣戟は鬼気迫るものを感じさせる。
(届かねえ……!掠り傷すら負わせらんねえ……!)
(デュオレリック無しでこの強さなんて……適合係数なんて当てにならないわね……!)
互いに相手の強さを認識し、奥の手を使わなくてはならないとさえ踏んでいる。それだけこの二人の戦いは熾烈を極めている。
その戦いを傍観していた萌芽と影風も手を出さずに関心を寄せている。
「天羽奏って、適合係数が低いって話だよね?多分、装者の中で一番強いんじゃ……」
「データじゃ測れないって事ですね。もしかしたらあの人も……」
突如届いた通信によって話は一旦遮られる。
「もしもっし〜?あぁ!結さん!」
『こちらは対象を捕獲。星羅の方も任務完了だ。全員速やかに引き上げろ』
「分かりました〜♪」
そう言って通信を終える。
「舞華さ〜ん!引き上げですって〜!」
「分かったわ」
鍔迫り合いを解いた舞華が距離を取る。
「尻尾まいて逃げんのか?!」
「私達の目的は戦いじゃない。いつかは決着つけなくちゃだろうけど、それはまたの機会ね」
噛み付く奏を軽くあしらうと、今度は翼に声を掛ける。
「風鳴翼。次に会う時は、その刃をもっと研いでおきなさい。それでも鈍だったら……今度こそ滅してあげる」
そう言い残して空いた天井から脱した。影風も萌芽を抱えてひとっ飛びで脱出。戦いが不完全燃焼で終わって舌打ちする奏だが、すぐさま翼の方へ駆け寄る。
「大丈夫か翼?!」
「奏……ごめんなさい……。何も出来なかった……」
「そんなことはいい!お前らも立てるか?!」
翼を抱き抱えて、他の面々の無事を確認する。
「私は大丈夫です……切りちゃんも」
「それよりも響さんか大変デス!」
クリスと未来の肩を借りてようやく立っている響。彼女が一番重症だった。
「おいオッサン!救護を頼む!翼と響が……。何だって?!セレナが?!」
本部に救護要請の通信を入れた奏。だがそこで、セレナが拉致されたという衝撃的な知らせを受けて驚愕した。
「分かった。とにかく救護を急いでくれ!」
最悪な状況に置かれていると認識して、奏は酷く焦る。同時にZ.E.U.S.にしてやられたと認識し、悔しさを強く露わにする。
何とか救護班の車両が到着。残されたマリアも運ばれたが、装者達は完全敗北を突きつけられる結果となってしまった。
【紫宮 舞華】
身長:162cm
誕生日:6月2日
BWH:B94 W58 H82
ギリシャ政府管轄特務機関「Z.E.U.S.」七星魔剣に所属するエージェント。
闇の魔剣 村正の使い手
七星魔剣のナンバーツーであり、唯一ギリシャ人の血が流れていない、日本人の純血。
母性溢れる穏和な性格で味方を常に第一に考えている。その反面敵対する者には一切の容赦はなく、特に無意味に抵抗、反抗する者には完膚無きまでに潰しという苛烈な一面を露わにし、その恐ろしさから『魔王』の異名を名乗っている。